市場規模10倍へ、大阪万博で注目の「フードテック」関連は妙味満載 <株探トップ特集>
投稿:
―食糧危機を救う有力な一手、大豆やキノコ由来の肉・培養マグロの実用化は目前に― 4月の開幕から盛り上がりをみせる大阪・関西万博。「動く心臓」や「火星の石」、「人間洗濯機」などさまざま話題となっているが、会場内の数ある展示のなかで一つ注目したいものがある。動物の細胞から人工的に作り出した 「培養肉」だ。生活や健康をテーマにした大阪ヘルスケアパビリオンの「ミライの都市」エリアにある「家庭で作る霜降り肉」のブースで実物が展示されている。近い将来起こりうる地球規模の食料危機から人類を救う一手になるとも期待される培養肉。企業の取り組みは広がっている。 ●万博を物色の手掛かりに 万博がスタートして早1ヵ月半ほど。当初は全国的な関心の低さが課題として指摘されていたが、いざ開催してみると各国企業・団体のパビリオンがメディアに続々と取り上げられ、それなりに注目度を高めている。直近、会場内で虫が大量発生している問題が波紋を広げるなど、展示内容以外のところで注目されてしまっている面もある。また、夏に向けた猛暑対策の必要性や「大屋根リング」の閉幕後の活用策といった諸々の不安、批判の声も依然としてあり、開催期間中を通じてポジティブ、ネガティブの両面で万博の話題には事欠かない状況が続きそうだ。 こうしたなか、株式市場では万博を物色の手掛かりとする動きが広がっている。目玉展示の一つ、iPS細胞技術を用いて作られた「動く心臓」が着目され、再生医療関連に位置づけられるバイオベンチャー株が相次ぎ急動意したのは記憶に新しい。新技術への取り組みは、まだ見ぬ市場の開拓とそれに伴う莫大な収益獲得の可能性を秘めていることから、投資家の視線を集めやすい。前述の「培養肉」も同様に、今後投資テーマとして人気化する局面が訪れるかもしれない。 培養肉をはじめ、食の可能性をテクノロジーの力で広げる「フードテック」の分野は将来的な普及拡大が見込まれる。インドや東南アジア、アフリカといったグローバルサウスと呼ばれる国々が経済発展を遂げ、爆発的に人口が増加すると予想されるなか、これに伴う世界的な食料不足を解決する手段になりうるためだ。農林水産省の公表資料によると、フードテック市場の世界規模は2020年の24兆円から、30年後の50年には279兆円にまで拡大する見通しにある(三菱総合研究所「令和3年度フードテック振興に係る調査委託事業」事業報告書)。 ●代替肉は既に商品化 培養肉の前に、まずは大豆などで作る代替肉に絡む銘柄をみてみよう。既に各社が商品化しており、店頭で見かけたことがある人も多いかもしれない。食肉メーカーでは日本ハム <2282> [東証P]が「ナチュミート」、伊藤ハム米久ホールディングス <2296> [東証P]傘下の伊藤ハムが「まるでお肉!」のブランドでそれぞれ商品を展開。食品メーカーでは大塚ホールディングス <4578> [東証P]傘下の大塚食品が「ゼロミート」を展開し、カゴメ <2811> [東証P]も大豆ミートを使った各種商品を販売している。昭和産業 <2004> [東証P]は大豆を主原料に独自開発した植物性食材「HMSP(ハイ・モイスチャー・ソリューション・プロテイン)」を活用した新ブランド「SOIA SOIYA(ソイアソイヤ)」を昨年発表。今年に入り、同食材を用いたチャーシュー風の商品を発売した。 不二製油 <2607> [東証P]はチョコレートなどに使う油脂の大手だが、代替肉の分野に取り組み始めた先駆け的な企業でもある。大豆ミートで国内トップクラスのシェアを誇る。同社は大豆の価値にいち早く着目し、1950年代に研究をスタート。69年に肉に近い食感に仕上げた肉状組織たん白製品「フジニック」を発売した。現在でも「フジニックシリーズ」として商品を展開している。 ユキグニファクトリー <1375> [東証P]は「雪国まいたけ」ブランドで知られるキノコ製造大手。同社は今年2月、新商品「キノコのお肉」を発売した。マイタケの繊維から作ったもので、肉のような食べ応え・うま味を実現したという。トマトソース味など各種シリーズ商品も展開している。大豆を使った代替肉が多いなか、新たな選択肢の一つとして存在感を増すことになりそうだ。 ●培養肉への取り組み続々、食品メーカー以外も 冒頭で紹介した「家庭で作る―」のブースは「培養肉未来創造コンソーシアム」という団体が手掛けている。同団体には大阪大学大学院工学研究科、島津製作所 <7701> [東証P]、TOPPANホールディングス <7911> [東証P]、伊藤米久HD、ZACROS <7917> [東証P](旧藤森工業)、シグマクシス・ホールディングス <6088> [東証P]傘下のシグマクシスなどが参画している。 このほか関連銘柄として、前述の日ハムは培養肉の製造に必要な「培養液」の主成分である動物血清を食品で代替することに成功した実績があり、更に研究を進めている。21年に培養肉の商業生産を目指す「オルガノイドファーム」を設立した日揮ホールディングス <1963> [東証P]、新規事業として培養肉の製造プロセスに関する開発を行う荏原 <6361> [東証P]、バイオスタートアップと共同で遺伝子組み換え原料を使わずに培養肉を作る製造装置を開発した実績があるカナデビア <7004> [東証P]も挙げられる。 また、日清食品ホールディングス <2897> [東証P]が見逃せない。即席麺の開発で培ったノウハウを生かしてフードテック分野に展開し、培養肉の研究開発でも成果を上げている。17年に東京大学と共同研究を開始し、19年に世界で初めて牛肉由来の筋細胞を用いたサイコロステーキ状の大型立体筋組織の作製に成功している。この培養肉の技術はマグロなどに適用することもできるとしており、将来的な事業展開の可能性に期待が膨らむ。 そのマグロの培養では、マルハニチロ <1333> [東証P]が取り組みを先駆させている。シンガポール企業のUMAMI Bioworksと魚の細胞を増やして食用に加工した「細胞性水産物」の共同研究開発を23年から実施しており、今年5月には細胞性クロマグロの開発に着手したことを発表した。マルハニチロは一正蒲鉾 <2904> [東証S]らとも細胞性水産物の開発を進めている。 株探ニュース