リスク無尽の世界で存在感、「高配当利回り&バリュー」6銘柄選抜 <株探トップ特集>
投稿:
―トランプ政権で経済に不確実性も、日本企業による資本効率向上の流れは不変― 第2次トランプ米政権の発足から4カ月が経過した。米国政策の不透明感が強まるなかで、株式相場は上方向に伸びきれない展開が続いているものの、個別株投資において収益獲得のチャンスが全く失われたというわけではないだろう。事実、東京市場では関税による影響を受けにくい内需株を中心に、利益拡大予想が示された銘柄に対し、投資マネーが集中する傾向が強まりつつある。更にPBR(株価純資産倍率)が低く、配当利回りが高水準にある好業績期待株については、株主還元の更なる強化によるインカムゲインの増大が期待できるとし、投資家の物色意欲も高い状態にある。 ●日米はマイナス成長 トランプ政権発足後のマクロ環境を振り返ると、米国の1~3月期の実質国内総生産(GDP)は3年ぶりのマイナス成長となった。個人消費が振るわず、駆け込み輸入の増加もマイナス要因となった。日本も1~3月期は4四半期ぶりのマイナス成長となった。DXの潮流で設備投資は底堅く推移した一方で、個人消費が横ばいとなり、輸出が落ち込んだ。 1~3月は米国による相互関税のベース分である10%の発動前である。防衛力の強化に動いた欧州では、財政出動による景気浮揚期待が広がっているものの、世界全体でみると、景気には下押し圧力が掛かった状況とみるべきだ。国際通貨基金(IMF)が4月に公表した世界の経済成長率予測によると、2025年は2.8%増。1月時点の3.3%増から下方改定となった。IMFは貿易摩擦の激化や政策面での不確実性が、成長を抑制させる要因となるとの見方を示している。 米国と中国が追加関税を引き下げることで合意し、両国の緊張関係が和らいだことで、株式市場では一時的にリスク選好ムードが広がったものの、日経平均株価は3万8000円を上回る価格帯で買い上がる姿勢は広がらず、足もとでは3万7000円台で膠着感を強めている。米国の関税政策による実体悪がどの程度表面化するのか、警戒モードを崩さない投資家は多い。 日本株の方向性のカギを握る要因として、為替動向も注視しないわけにはいかない。日米両国の通貨当局者同士の協議のなかで、米国がドル安を促すべく、日本側に何らかのメッセージを伝えたことが明らかとなった場合には、円高を伴って輸出株に下押し圧力を掛ける可能性がある。 ●三菱商は1兆円、セブン&アイは6000億円上限の自社株買いへ 直近ではトランプ関税の影響を受けない内需セクターに投資家の関心が向かいつつあるが、資本効率を高めようとする産業界の潮流に関しても「トランプ関税で経済に下押し圧力が掛かったとしても、急変することは見込みにくい」(中堅証券ストラテジスト)との声がある。東証主導で資本コストを意識した経営の実現に向けた企業の意識改革が進んだ結果、今年4~5月の決算発表シーズンにおいても、大規模な自社株買いや大幅な増配計画の発表が相次いだ。 4月以降に公表された主要企業の自社株の取得枠・取得総額の上限をみると、三菱商事 <8058> [東証P]が1兆円、セブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]が6000億円、信越化学工業 <4063> [東証P]は5000億円、日立製作所 <6501> [東証P]が3000億円、ソニーグループ <6758> [東証P]と三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]がそれぞれ2500億円、NTT <9432> [東証P]や第一三共 <4568> [東証P]が2000億円に上る。怒涛の自社株買いラッシュの様相を呈しており、需給環境を評価した海外投資家の買いは、日本株の下支え要因となる可能性がある。 更に海外との比較では日本は低金利環境にある。資産の効率的な形成に向けて、高配当利回り銘柄に対する個人投資家の買い意欲は衰える兆しがみえない。特にPBRが1倍を下回る水準にある高配当利回り銘柄は、資本効率の観点から更なる株主還元の可能性が期待でき、不透明な相場環境でも安定した買い需要を集めると考えることができる。こうした観点から、今期業績が堅調な見通しでPBRが1倍割れの高配当利回り銘柄のなかから、妙味を感じさせる6銘柄を選抜していく。 ●低PBR×高配当利回りの妙味株 ◎奥村組 <1833> [東証P] 関西を地盤とする中堅ゼネコンで配当利回りは5.1%台。PBRは0.87倍となっている。前期は北海道・石狩新港のバイオマス発電所の爆発事故の発生を受け特別損失を計上し、前の期と比べて8割近い最終減益を余儀なくされたが、26年3月期の最終利益は前期比4.2倍の113億円に回復する見通し。今期の受注予想は同25.7%減の2800億円と減少の見通しながら、大阪・関西万博の後にカジノを含むIR(統合型リゾート)構想の始動が関西地域では見込まれ、中期的な観点で受注面での好影響が期待される。連結配当性向は70%以上とする方針で、株主資本配当率(DOE)2.0%を下限とする。株価は75日移動平均線と200日移動平均線がゴールデンクロスを形成し、昨年7月以降の株価調整トレンドの終息と長期的な上昇トレンドの再開が期待される。 ◎EIZO <6737> [東証P] ディスプレー専業でオフィスや公共機関、航空関連など幅広い製品を提供。配当利回りは5.5%近辺。PBRは0.66倍にとどまっている。欧州関連株としても知られる同社の26年3月期売上高は前期比5.6%増の850億円、営業利益は同29.5%増の48億円とトップラインは堅調に伸びて収益性は改善する見通し。今期は株式分割考慮後ベースで13期連続増配を予想する。主力の欧州に加えて日本国内やインド・中東での販売拡大を計画。前期に在庫調整の影響を受けたヘルスケア部門も回復に向かうと想定する。年間配当に関しては下限を前期実績の105円とする方針を示し、3月末の自己資本比率は78.8%と高水準。年初来で株価は9%の下落と、電気機器セクター全体との比較ではパフォーマンスが劣後した状況だ。 ◎スミダコーポレーション <6817> [東証P] エレクトロニクス業界において高いプレゼンスを持つコイル専業メーカーで、配当利回りは5.6%、PBRは0.56倍。欧州での事業構造改革や中国での生産能力の最適化に取り組んだ結果、25年12月期第1四半期(1~3月)は前年同期比で売上高は2.5%減の353億9000万円にとどまった半面、税引き前利益は72.6%増の8億200万円と大幅増益となった。製造業全般に米国の関税政策による需要低迷の懸念が渦巻いており、脱炭素に向けた潮流も大きく変化したなかにあるが、電動車関連や、太陽光発電・蓄電池を含むグリーンエネルギー向けは増収で着地している。同社によると、営業利益に関しては第1四半期が底となる季節性があるといい、今後については好決算となった22年12月期と近い業績推移になる可能性を指摘している。株価は4月7日を底とした反騰が一服し、日柄調整の局面に差し掛かっているが、年初来高値1053円手前の戻り売り需要をこなせば、上値余地が広がってくる。 ◎岡部 <5959> [東証P] 建築用の仮設・型枠製品や耐震製品など構造機材、土木製品を手掛け、配当利回りは4.9%台でPBRは0.62倍。米国の訴訟関連の特別損失が響いて最終赤字となった前期から一転して25年12月期は最終黒字転換を見込む。第1四半期(1~3月)は2ケタ増益で着地した。2月に配当性向40%以上を原則(従来は30%以上を目安)とし、かつDOE3%以上を目安として配当を実施するとともに、機動的な特別配当および自己株式の取得を実行する方針を示した。国土強靱化に向けたインフラ関連需要を追い風として、業績拡大を伴った更なる配当積み増しに期待が膨らむ。25日移動平均線を下回る足もとの局面では値頃感もある。 ◎サカタインクス <4633> [東証P] 印刷インキ大手で配当利回りは4.8%台、PBRは0.86倍。25年12月期はアジアと米州でのパッケージ用インキを中心とした拡販効果を見込み、売上高が前期比9.1%増の2680億円、最終利益が同19.9%増の108億円となる見通し。前期に続き過去最高益を更新する計画を示しているほか、第1四半期(1~3月)の利益の進捗状況は順調だ。上場企業の政策保有株式に関して12月末までに時価ベースで昨年末比50%以上縮減し、将来的にゼロにする方針を示すなど、資本効率の向上に向けた戦略は株式市場から高く評価されている。 ◎ヨンドシーホールディングス <8008> [東証P] ジュエリーブランド「4°C」の展開で知られる。コロナ禍の外出自粛要請でプレゼントの需要が大きく落ち込んだなかでも赤字に転落することはなく、26年2月期は売上高が前期比43.8%増の660億円、経常利益は同33.9%増の31億5000万円と大幅な増収増益を計画。配当利回りは4.8%台。PBRは0.94倍だ。既存事業では商品政策の改革を進め、女性客の支持拡大など一定の成果は発現しているもよう。ブランド時計の販売・買取事業を展開する羅針を約105億円で買収し、高級ブランド時計専門のリユース事業に参入した。株価は全体相場が急落した4月7日以降の戻り局面が一服した後、5月に入り再び調整色を強めているが、それゆえ穴株としての妙味を深める格好となっている。 株探ニュース