三井郁男氏【米格下げでムードは変わるか、この先の展望を聞く】 <相場観特集>

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コラム

―米トリプル安の再来に警戒感も、決算発表シーズン終了後の物色動向を聞く―

 米格付け会社のムーディーズ・レーティングスが前週末16日に米国債の長期信用格付けを引き下げたと発表した。時間外取引で米長期金利に上昇圧力が掛かるなか、19日の日経平均株価は4日続落。米中の緊張緩和を受けたリスク選好ムードは後退し、足もとでは円高懸念が台頭するようになった。日本株はこの先、調整色を強めることとなるのか。今後の展望について、アイザワ証券・投資顧問部ファンドマネージャーの三井郁男氏に話を聞いた。

●「7月まで安定した相場環境は継続」

三井郁男氏(アイザワ証券 投資顧問部 ファンドマネージャー)

 金融市場は4月に米国株・ドル・米国債のトリプル安をすでに経験している。それだけに、今回の米国の格下げがボラティリティを上昇させることになったとしても、当時のような大きな波乱が再び起きることは見込みにくい。米国の経済指標のうち、ハードデータに属するものは底堅い内容のものが相次いでいる。また、4月の相互関税の発表後にキャッシュ・ポジションを積み増した投資家が、なかなか株式を買い戻すことのできない状態も続いている。90日間の相互関税の一部猶予が公表されたことに伴い、7月までの間は安定した相場環境となるとみているが、その後は関税による実体悪が表れる恐れがある。需給環境や年後半の相場展望を踏まえ、この先の1ヵ月間の日経平均は3万6500円から3万9000円の範囲で推移すると想定している。

 国内では3月期決算企業の本決算発表が一巡したが、今期の業績予想を開示できない企業が相次ぐとの事前の懸念とは裏腹に、多くの企業がトランプ関税による影響について試算・シミュレーションを行い、業績見通しを公表した。自社株買いにキャッシュを配分する企業の姿も目立ち、4月から5月初旬までの自社株取得枠の設定額は、昨年の同期間との比較で3倍に膨らんだという。ROE(自己資本利益率)を重視した経営が日本国内で一段と広がっている点は評価できる。米国に集中していた投資マネーが米国以外に分散する流れが加速した場合、企業による資本効率の向上機運が高まっている日本株は、マネーの受け皿となる可能性がある。

 もっとも目先の全体相場が一進一退の動きとなると見込まれるなかにあって、個別銘柄の選別力は一層重要なものとなっていく。トランプ関税の影響を受けにくい内需セクターのなかでは収益性の観点で、鹿島 <1812> [東証P]や清水建設 <1803> [東証P]といったゼネコン各社や、関電工 <1942> [東証P]など電設関連に対し、投資家の関心が引き続き高い状態になると考えられる。米国とは異なり、日本国内の金利低下が見込みにくいことを考えると、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]などメガバンクには押し目買いが入りやすい状況だ。日立製作所 <6501> [東証P]やソニーグループ <6758> [東証P]、リクルートホールディングス <6098> [東証P]なども、生成AIの普及がビジネスの高付加価値化に寄与すると見込まれるため、目配りをしておきたい。

(聞き手・長田善行)

<プロフィール>(みつい・いくお)
1984年からファンドマネージャーとして日本株運用を40年以上にわたり続ける。国内銀行投資顧問、英国の投資顧問会社、国内大手信託銀行を経て、投資顧問会社を設立。2013年からアイザワ証券の投資顧問部で日本株ファンドマネージャー。自ら企業調査するボトムアップ運用を続けている。


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