米中緊張緩和はホンモノか、ショートカバー完了後の投資戦略を探る <株探トップ特集>
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―関税引き下げ合意のサプライズの陰で、好業績円高メリット株は押し目を形成― トランプ米大統領の就任以来、金融市場が大きく揺れ動いている。本家米国では、4月上旬の金利上昇(債券価格の下落)、株安、ドル安という「トリプル安」の流れが収束した後、5月12日に米中両国が関税引き下げで合意したことを受け、今度は株高・ドル高が加速。米国売りで上昇した金利は今やリスクオンの流れのなかで再び上昇するようになった。東京市場でも外需株へのショートカバーを誘発する格好となり、日経平均株価は一時的に3万8000円台を回復した。一方で、ユーフォリア的なムードがどこまで持続的なものなのか、懐疑的な投資家は多いはずだ。 ●躍動するベッセント氏 世界各国を相手にした一方的な関税政策に見られるように、トランプ大統領の発言は二転三転するのが常である。その発言に一喜一憂する必要はないかもしれない。しかし、現実に政策が動き出し、金融市場は大きく変動している。ドル円相場は一時的に1ドル=139円80銭台をつけた4月22日を底に、5月12日には148円台半ばまで上昇。大型連休をまたいで急速に円安が進行した。 ベッセント米財務長官と中国の何立峰副首相が対峙したスイス・ジュネーブでの米中貿易協議において、両国は互いに関税を115%ポイント引き下げることで合意。日本時間14日午後1時すぎに、実際に引き下げた。引き下げ分の一部に関しては、90日間の停止となっている。両国の合意後、トランプ大統領は中国からの輸入品に対する関税について、一時停止期間が終了した後も「145%に戻ることはない」と述べた。 米中の緊張緩和を受けて投資家のリスク選好姿勢が強まる格好となったが、その結果として読みにくくなったのが、日銀の金融政策である。日銀の植田和男総裁は5月1日、金融政策決定会合後の記者会見で、物価2%目標の達成時期が後ずれする可能性を指摘するなど、ハト派的な姿勢をみせ、市場もこれに呼応して利上げ観測が後退した。その背景には米国の関税政策による経済停滞のリスクがあった。しかし、トランプ米政権の姿勢転換により、この先一段と円安が進行することとなれば、利上げ観測は再び台頭すると見込まれる。 国内では今年の夏には参院選を控えている。物価高が社会問題化するなかにあって、物価上昇を想起させる円安が一段と進むこととなれば、政府サイドから日銀に対し、金融政策の正常化圧力が強まることも予想される。 もう一つ、注視しなければならないのが、日米為替協議の動向だ。加藤勝信財務相は来週の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議において、米財務長官と協議を行う方向で調整を進めていると報じられている。4月24日の日米財務相会談を巡っては、加藤財務相が会談後に米国から為替の水準の目標や、枠組みの話は全くなかったと述べたが、読売新聞はその後「ベッセント氏がドル安・円高が望ましいと発言した」と伝えている。日本政府がこの報道をいくら否定したとしても、日本が米国から為替面で何らかの要求を突き付けられているとの思惑は当面、消えてなくなることはないだろう。実際にドル円の上昇は1ドル=150円を手前にして失速した。 4月の相互関税を巡る騒動では、ベッセント氏らがトランプ氏に翻意を促したとされている。米中貿易協議の結果は、関税策を主導したとされるナバロ上級顧問の目にはどう映るのか。失地回復の機を計るナバロ氏にそそのかされる形で、トランプ政権が再び対中強硬策を強めるシナリオが消えてなくなったわけではない。 ●紙パルプ・セメントで好業績予想相次ぐ 為替市場の円高(ドル安)転換の可能性を念頭に置くと、 円高メリット株は有望銘柄となる。実際に直近の円安進行で売り込まれた銘柄は多く、押し目買いの好機にも見えなくはない。円高メリットの代表的な銘柄として挙げられるのが、家具の製造小売トップで、海外に自社工場を有するニトリホールディングス <9843> [東証P]や、世界に約500社の協力工場を持ち、「世界の本物を直輸入」をコンセプトに低価格販売を標榜する神戸物産 <3038> [東証P]、作業服チェーンのワークマン <7564> [東証S]、靴小売のエービーシー・マート <2670> [東証P]である。為替変動の影響による商品仕入価格の変動が利益率に直結する100円ショップのセリア <2782> [東証S]やキャンドゥ <2698> [東証S]なども加わることになるだろう。 また紙・パルプ業界は、原料である木材・パルプと燃料である石炭・石油を輸入に頼っており、円高メリットが享受できるセクターである。足もとでは紙の需要が減少傾向にあるが、一方で徐々に業界・設備の集約も進みつつある。国内製紙業界トップの王子ホールディングス <3861> [東証P]は、山林保有面積は民間企業で国内最大規模。28年3月期のROE(自己資本利益率)8%を目標に、既存事業強化と事業ポートフォリオ転換、資本効率向上を図る。26年3月期の最終利益は前期比40.8%増の650億円と大幅増益を計画する。相対的に需要の堅調な段ボールで国内首位のレンゴー <3941> [東証P]は今期営業増益の見通し。ともにPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回っており、配当利回りは王子HDが5%台半ば、レンゴーが4%前後だ。加えて、特殊紙と段ボール原紙を主力とする特種東海製紙 <3708> [東証P]は、資本コストや株価を意識した経営へと大きく舵を切っている。南アルプス・大井川上流に広大な社有林を有し、自然環境活用を新規事業の柱に据え、ウイスキー蒸留事業の今後の展開に注目が集まる。今期は2ケタ増益で、営業利益と経常利益は過去最高を見込む。 セメント業界も輸入原燃料への依存度が高い。原料の石灰石は国内で自給可能だが、原料にも燃料にもなる石炭は海外からの輸入に頼っている。足もとの業績は、石炭価格の高止まりと為替円安がマイナスに作用したが、石炭価格は下落基調となっており、為替の円高反転があれば、原燃料コストの大幅低下が見込める。低迷していた国内セメント需要についても、災害復興や国土強靱化などの政策が効きつつある状況だ。 国内業界首位の太平洋セメント <5233> [東証P]の26年3月期は前期に続き過去最高益の更新を計画。年間配当予想は20円増配の100円とし、株主還元も強化している。セメントの国内需要は減少を想定するものの、値上げ効果が発現する見通しだ。住友大阪セメント <5232> [東証P]の今期営業利益は前期比2.0倍と急拡大する見通し。自己株式を除く発行済み株式総数の4.54%に相当する150万株、取得総額にして50億円を上限とする自社株買いに乗り出す。 このほか、わが国の食料自給率の低さを考えると、食品加工業界には円ベースでの原料価格低下という点で円高・ドル安メリットが大きい。製粉業界の場合、原料小麦の8~9割を輸入に頼っており、日清製粉グループ本社 <2002> [東証P]とニップン <2001> [東証P]、昭和産業 <2004> [東証P]、日東富士製粉 <2003> [東証S]の大手4社で国内シェアの約80%を占める。製油や製糖も似たような業界構造で更に集約も進んでおり、日清オイリオグループ <2602> [東証P]の今期最終利益が前期比2.1倍の275億円、DM三井製糖 <2109> [東証P]は同22.3%増の77億円を計画。水産物貿易や加工食品を主体とし、多くを海外で調達・加工して輸入販売する水産業界や畜産物関連では極洋 <1301> [東証P]とニチレイ <2871> [東証P]、ハム・ソーセージ最大手の伊藤ハム米久ホールディングス <2296> [東証P]が今期2ケタ増益を予想している。 株探ニュース