山岡和雅が年後半の為替相場の行方を読む <GW特集>

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コラム

◆投資資金の米国離れはどこまで進むのか

 2025年に入ってドル安・円高が進んでいる。1月10日に1ドル=158円87銭を付けたドル円は、4月22日に139円89銭を付けた。2024年の安値である139円58銭の更新も現実味を帯びている。

 この動きには、大きく分けると二つの流れがある。1月の158円87銭から3月11日に146円54銭を付けた22円強のドル安・円高と、いったん持ち直した後、4月に入って150円ちょうど前後から139円台を付けたドル安・円高である。

 前者は1月に追加利上げを行った日銀のさらなる利上げ期待や、1月に発足したトランプ米政権が打ち出した関税政策などによる先行き不透明感を背景とする、米長期債利回りの低下などを受けた日米金利差の縮小見込みが主な材料となった。

 一方、後者の4月に入ってからのドル安・円高局面では、米10年債利回りが4日の3.85%台から11日の4.58%台まで約0.7%の大きな上昇を見せるなど、ドル安局面で米債利回りが上昇(債券価格が下落)した。この間、米国株も大きく下落し、ドル安も含めた債券、株式、為替のトリプル安が生じた。マネーが米国そのものから逃げていく、いわゆる投資資金の米国離れが生じている状況である。

 ここから2025年末までの為替相場を予想するにあたっては、こうした投資資金の米国離れがどこまで進むのかを考える必要がある。大きく3つのケースに分けて考えていきたい。

◆第1のシナリオ:リスク警戒が後退、中長期的なドル安・円高の流れは継続

 一つ目は、最も穏当で可能性の高そうなケースである。

 資金の米国離れであるが、ドルが基軸通貨としての地位を失うことは、流動性の面でも、貿易実務の面でも、外貨準備の面でもかなり難しい(というかほぼあり得ない)。一時的なリスク警戒の動きが落ち着くと、相場もある程度の秩序を取り戻すとみられる。

 ドル円は行き過ぎた動きへの調整もあり、短期的には少しドル買いが入る可能性がある。ただ、その場合でも中長期的なドル安・円高の流れは継続すると見ている。日銀の追加利上げに関しては、金利の正常化という観点からもゆっくりと進んでいくとみられる。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は景気下支えの観点から年内少なくとも3回、おそらくは4回の利下げを実施する可能性が高い。投資資金の米国離れが一服するも、1月から3月に見られた日米金利差の縮小傾向を受けたドル安・円高の流れが期待される。短期的に150円を超えるドル高となる可能性があるが、年末にかけては135円に向けた動きを見込んでいる。

 ユーロ円は2025年に入ってドル主導の展開が続き、方向性がはっきりしない不安定な動きとなっている。今後について、この穏当なケースではリスク警戒後退からの円売りが予想され、短期的なドル円の上昇局面での上昇が期待される。ただ、その後ドル安・円高が進むと再び不安定な動きとなりそうだ。ユーロドルはドル離れ一服で少し売りが出る可能性があるが、対円でのユーロ買いなどを支えに落ち着いた動きを見込んでいる。

◆第2のシナリオ:続く混乱、不信感が米国離れを加速

 二つ目は、混乱がもう少し続くケースである。

 トランプ関税は世界経済にとって大きな懸念材料となる。現状で145%となっている対中関税については、ある程度の縮小が見込まれるものの、高水準の関税が残る可能性が高い。中国の輸出業を中心に中国経済が大きなダメージを受けることで、中国だけでなく豪州や南ア、ブラジルといった対中輸出の大きい資源国の経済にも影響が及ぶ。こうした事態を引き起こした米国への不信感が資金の米国離れを加速させる形で、穏当なケース以上にドル安が進むとみている。

 ドル円は心理的節目である130円や、2023年1月に付けた127円台がターゲットとなる。この場合、ユーロドルなどでもドル安が進む可能性が高い。ユーロドルは1.1700ドルを超えると動きが加速する可能性がある。ドル主導の展開が当面続き、ユーロ円などは上下に不安定な動きが見込まれる。

◆第3のシナリオ:マールアラーゴ合意実現でドルの歴史的全面安に警戒も

 最後に、歴史的な動きとなるケースである。

 4月以降の米国離れの中で、にわかに話題となっているのがマールアラーゴ合意である。マールアラーゴとはフロリダ州にトランプ大統領が保有する別荘のこと。各国首脳との会談などで利用される同地において、1985年のプラザ合意のように多国間での通貨/外国為替相場に関する取り決めを行うという構想である。

 その構想の元となっているのが、トランプ関税などの一連の経済政策の理論的支柱となっているスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が昨年11月に発表したレポートである。この中でミラン氏はドルがこれまで基軸通貨として過剰な需要を受け、ドル高が進んだことが、米国の双子の赤字と産業空洞化につながったという考えを示している。そして、今後ドル高を是正することにより状況を改善し、米製造業の復活を果たすとしている。

 具体的には、各国の外貨準備の大半を売却させることでドル安に誘導し、残った外貨準備として保有する米短期国債を100年割引国債と交換することで金利の上昇を抑えるという方針を示した。そして、各国にこうした動きを促すため、関税の賦課と米国の安全保障の傘からの離脱を示すとしている。かなり過激な施策であり、ミラン氏自身もあくまでアイデアの一つとして示したものである。ただ、直近の相互関税に加え、日本や韓国などに求めている防衛費拡大などの動きから荒唐無稽とはいいがたい状況である。

 では、実際にこの合意がなされた場合はどのような展開が予想されるか。1985年のプラザ合意では、ドルの実質実効レートは約32.5%下落した。昨年付けたドル円の高値161円95銭から同じようにドル安が進むと109円32銭となる。まさかの110円割れである。それどころか4月後半の水準から32.5%低下した場合だと、100円を割り込むことになる。さすがにあり得ないと思いたいが、何をやってくるのかわからないのが今のトランプ政権の怖さだとすると、頭の片隅には残しておきたい。この場合、ユーロドルなども記録的なドル安となる。ドルの歴史的全面安に対する警戒が必要となる。

2025年4月28日 記


株探ニュース

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