相場観特集スペシャル版・2025年後半の東京市場はこう動く! ブーケ・ド・フルーレット代表 馬渕治好氏に聞く <GW特集>
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―トランプ関税で再びの大波乱から立ち直る、目先リバウンドの先に見える東京市場の近未来を読む― 東京株式市場はトランプ米政権が打ち出す高関税政策に振り回され、日経平均株価は3月下旬を境に急落を余儀なくされ、4月7日にはザラ場で3万円トビ台まで売り込まれる大波乱に遭遇した。しかし、そこからの切り返しも急で、直近では一時3万6000円台を回復する場面もあるなど、あっという間に5000円幅の急激な戻り相場を演じている。令和のブラックマンデーと言われた昨年8月初旬の暴落時もそうだったが、売り込まれた後は空売りの買い戻しが思った以上に強く作用することが今回も証明された。しかし、中長期的なトレンドは別である。日経平均は昨年9月下旬から今年2月末まで5ヵ月以上にわたる3万8000円から4万円のボックス圏を下放れたことは事実であり、今は新たな株価の居どころを摸索する段階にある。年央から年末にかけて日経平均はどのような値動きを示すのか、経済分析をベースとした相場の先読みに定評があり、個人投資家からも信頼の厚いブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏に見解を聞いた。 (聞き手・中村潤一) 「年央以降は日米ともに上昇相場へ」 馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット 代表) 全体相場は上下に荒れた値動きではあるが、下値に対するリスクは大分緩和されているように見える。ここから日米の株価が大きく底を抜けるような事態に陥る可能性は低いと考えてよいのではないか。米国株市場の株価は4月上旬につけた安値(S&P500指数で7日ザラ場の4835.04)でおおむね年内の底値圏に到達したと判断される。株価については行き過ぎた下落を指し示す指標が観測されるほか、トランプ関税の項目がテーブル上にすべて出ている状態で、経済のソフトデータの悪化もマーケット的には消化したと考えている。 ●目先不安定もバリュエーション調整は終了 米国株市場について直近の予想PERでみた割高感は、一時期と比べかなり解消されている。まだ、投資家心理は不安定で短期的にはボラティリティが高いものの、徐々に流れは変わりつつあることを認識しておきたい。 しかし、急速に米国株市場が上値指向を強めることも見込みづらい面がある。関税の悪影響が反映される4月分のハードデータが5月ごろに開示されてくることや、4~5月が企業の決算発表シーズンであることも念頭に置いておく必要があろう。株式市場は企業側の収益展望とアナリストの利益予想数値の下方修正などを織り込みに行くプロセスが必要となる。 一方、日本株も目先はともかく基本的には頑強な値動きが想定される。やはり4月上旬の急落(4月7日ザラ場の日経平均3万792円)で底値ゾーンに到達したとみている。外国為替市場ではドル・円相場で円高進行に歯止めがかかったが、米国からの資本逃避などの影響の度合いが見えにくく、まだ1ドル=140円台を下回る円高局面に遭遇する可能性はある。ただ、株式市場への下押し圧力は限定的なものにとどまりそうだ。PERなどの投資指標面では日本株は米国などと比較してもかなり割安な水準にある。 ●米国株市場は金融と財政の両面で株価を下支え 年末にかけては世界の株式市場は再び上昇基調を取り戻すと予想する。その根拠は世界経済の長期回復基調が挙げられる。中期的にみて米国経済が深刻化するような局面となっても、それに対しては米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的な金融緩和策など打つ手はある。年後半にはトランプ米政権は減税策なども打ち出すことが予想され、株式市場に下支え効果をもたらしそうだ。 今年の年末までに想定される日米の株価については、まず、米国はS&P500指数で5400~6200を想定、日本については日経平均で3万3000~4万円のゾーンを見込んでいる。日経平均は米国株市場を横にらみに5月あたりまでは上値の重い展開が予想されるものの、年央を境に上げ足を強め、年末に向けて4万円大台をうかがう強調トレンドを想定する。株式市場に影響が大きい為替動向については、ドル・円で1ドル=137~155円のレンジでみており、現状の水準よりは円安方向に振れる余地が大きい。 ●半導体株は“谷越え”OKなら強気の対処も 投資対象としては、まず個人投資家に人気のある半導体セクターについては今が買い場であるとは言い切れない。トランプ米政権の個別品目の関税対象として、まだ税率などがはっきり見えていない点や対中輸出規制などの強化の度合いも測りかねる状況下で、再び下値を探る場面が想定される。ただし、年末にかけては上昇トレンドが強まるとみており、“谷越え”でもよければ、今から半導体株の押し目は買い下がっていく方針で報われそうだ。 一方、内需株は国内景気が悪化していない点で、小売りや外食、鉄道といったセクターは堅調な値動きが予想される。メガバンクなど銀行セクターについては、日銀の利上げの方向性は変わらないものの利上げペースは緩慢なものとなりそうで、金融政策への期待を材料にここから積極的に買い進むには難しい面もある。ただし、配当利回りに着眼したインカムゲイン狙いの買いであれば物色対象として十分な魅力がありそうだ。 ●日本株の本格上昇には「真の改革」が必要 そして、長期的に日本株が世界株のパフォーマンスを上回る上昇ができるかどうかは、企業経営の改革と利益率の向上がカギを握っている。これについては、自社株の買い入れや増配などの実施では改革を「やったふり」の域を出ず、真の改革が問われている。 具体的にはROE(自己資本利益率)を向上させるために、自社株買いや増配などの分母を縮小する手段ではなく、分子である利益を高めることが重要であり、その方策を中期経営計画などで投資家にしっかりと指し示すことが企業側の大きな課題となっていく。また、投資家との対話にも今より重点を置く必要がある。海外投資家の意見を聞くと、投資対象の企業に訪問しようとしてもそれを断る企業は結構多いという。他方、機関投資家目線で株価意識の高い企業は、投資する側の意見を良い形で受け入れて経営に反映していくケースも少なくなく、そうした取り組みの一つひとつが、東証が要請する経営改革が目指すコンセプトに元来合致すると思われる。 <プロフィール>(まぶち・はるよし) 1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米MIT修士課程修了。米国CFA(証券アナリスト)。マスコミ出演は多数。最新の書籍は「コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法」(金融財政事情研究会)。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。個人投資家などに向けてセミナー講演を活発に行っている。セミナーのスケジュールは「ブーケ・ド・フルーレット」のホームページ参照。 株探ニュース