相場大変動でも抜群の安心感、金城湯池の「キャッシュリッチ」銘柄群 <株探トップ特集>
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―米政策不確実性になお警戒、波乱再来なら「キャッシュ・イズ・キング」意識の展開へ― 3月下旬以降のショック安の発端となったトランプ米政権の相互関税。報復措置をとらなかった国・地域に対する一時停止期間は90日間で、単純に見積もれば期限は7月9日だ。それまでの間に関税政策を巡る不確実性が意識され、再びマーケットが大荒れとなるリスクが横たわった状況にある。関税の引き上げ分は最終的には米国の消費者に負担を強いるものであり、米国経済が風邪をこじらせれば日本経済も打撃を被ることとなる。関税不況によって企業業績に対する悲観的な見方が強まった場合に脚光を浴びると考えられるのが、財務体質が強固な銘柄だ。 ●内需株傾斜が鮮明に 23日までの1カ月間で、日経平均株価が終値ベースで1000円以上の上下動となったのは6営業日。変動率で1%以上となったのは15営業日もある。ボラティリティが極めて高い相場環境のなか、22日にトランプ米大統領は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を巡る前言を翻す形で、解任するつもりはないと発言。更に中国に対する関税率に関し、145%から「大幅に下がっていく」との見方を示した。ベッセント米財務長官も関税を巡る米中対立は長くは続かないと、非公開の投資家イベントで発言したと報じられた。23日の東京市場では景気敏感株へのショートカバーが入り、日経平均は3万5000円台に乗せる場面がみられた。 その直前まで米国市場は株とドル、国債がいずれも下落する「トリプル安」に見舞われていた。まさに「狐につままれる」感覚を抱いた投資家は多かったに違いない。とはいえ、山が高く谷の深い相場に落ち着きがみられない状況がこの先も続くのであれば、腰を据えてリスク性資産である株式に資金を投じる動きが広がることは見込みにくい。トランプ米政権が再び対中強硬姿勢を示した場合に、再び株が売り込まれるリスクは残ったままだ。 米国の関税政策が世界経済に深刻なダメージをもたらすとの見方もなお根強く、日本国内においては輸出企業全般に今期の業績への悲観的な見方が強まっており、投資家の目線は関税の影響を受けにくい内需株に向かいつつある。だが米国発の関税不況のリスクが横たわるなかではどうだろう。国内企業において賃上げ機運が高まったといえども、マクロ環境を踏まえて企業による来期以降の賃上げの持続性に疑問符が付くこととなれば、消費者の財布の紐も緩みっぱなしというわけにはいかなくなる。 ●キャッシュリッチ企業目立つゲーム業界 経済情勢の不確実性が高まり、金融市場が急速に不安定化すると、投資家の多くは「キャッシュ・イズ・キング(現金は王)」という相場格言を想起することとなる。コロナ・ショックで株式相場が暴落に見舞われた局面では、下げが一服した際に、手元資金を豊富に保有する銘柄を物色する投資家の姿勢が広がった。経済が大混乱に陥ったとしても、キャッシュを手厚く持つ企業は当面の資金繰りに窮することは少なく、設備投資需要が低迷するなかにおいて、平時よりも安いコストで成長投資を行うことが可能となる。蓄積した利潤を株主に還元する余力を持つという点でも魅力的な投資対象であり、全体相場安に伴って割高感が薄れた局面は、格好の買い場となる。 4月8日以降の反騰局面で、関税の影響を受けにくいとして物色意欲が高まったゲーム株には、手元資金を多く抱える企業が多い。任天堂 <7974> [東証P]の場合、昨年12月末時点の現預金は1兆4458億円に上り、無借金経営である。バンダイナムコホールディングス <7832> [東証P]やスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> [東証P]、コナミグループ <9766> [東証P]、ネクソン <3659> [東証P]なども豊富な手元資金を抱える企業として有名だ。 ゲーム以外でキャッシュリッチな主要企業を挙げるとすると、製造業であれば信越化学工業 <4063> [東証P]やキーエンス <6861> [東証P]、ファナック <6954> [東証P]、東京エレクトロン <8035> [東証P]などの名が浮上する。足もとのマーケットは内需株に傾斜した状況ではあるが、製造業においても、インフラ分野や防衛向けなどで堅調な業況が見込める企業は存在する。こうした観点から、マーケットに不穏な空気が漂い続ける状況下において、穴株的な妙味を持つ銘柄をいくつかピックアップしていく。 ●穴株妙味のキャッシュリッチ6銘柄選抜 ◎アリアケジャパン <2815> [東証P] 畜産系天然調味料の国内最大手。国内では外食需要が堅調ななか、加工食品メーカーへの値上げ効果もあって、円安による利益面での悪影響を補う構図となっている。海外では中国で苦戦を強いられている半面、欧州では高成長を果たしている。昨年12月末時点の自己資本比率は87.2%で無借金経営。利益剰余金は955億円に積み上がっている。3月下旬以降の全体相場の調整局面では、75日移動平均線を下回ったところで押し目買いを集めた。5日移動平均線と25日移動平均線のゴールデンクロスを達成しており、株価回復トレンドの継続に期待が膨らむ。 ◎日油 <4403> [東証P] 油脂化学品大手でDDS(薬物送達システム)医薬用製剤原料など幅広く事業を展開。火薬を手掛けていることから 防衛・宇宙関連銘柄としても位置づけられている。主力の機能化学品事業では化粧品関連が好調に推移。DDS向け製剤原料における一部顧客に絡んだ在庫調整の影響を受けながらも25年3月期第3四半期累計(4~12月期)は増益を確保し、通期計画に対する経常利益の進捗率は約86%となった。実質無借金経営で昨年12月末の自己資本比率は79.6%。利益剰余金は2236億円に積み上がっている。総額50億円規模の自社株買いを2~3月に実施。今期においても新たな株主還元策を打ち出すか注目される。200日移動平均線を下回る株価水準には値頃感もある。 ◎ニチアス <5393> [東証P] 石油関連や火力・原子力発電所、製鉄所などのプラント向けの工事やシール材、断熱材を提供。半導体製造向けの高機能製品や自動車向け防音・制振部品、建材製品なども手掛ける。25年3月期は営業利益が2ケタ増で連続最高益更新を計画。足もとではプラント向けのメンテナンス需要や国内インフラ向けシール材などが好調に推移している。昨年12月末時点の自己資本比率は73.2%。現金及び現金同等物残高が有利子負債を上回る実質無借金の状態で、利益剰余金は1764億円に上る。直近の変更報告書ベースで米キャピタル・リサーチによる共同保有割合は8.97%に上昇。保有目的は純投資としている。昨年11月からの株価調整が一巡し、底入れの兆しがみられるようになった。 ◎江崎グリコ <2206> [東証P] 菓子国内大手。システム障害による製品出荷停止で前期の業績は落ち込んだが、25年12月期は2ケタの増収増益と持ち直しに向かう計画だ。新たな中期経営計画においてROE(自己資本利益率)を27年12月期に6~8%(24年12月期は3.0%)にする目標を示したことに対し、水準としてやや物足りないとの受け止めも一部で広がった。3月25日の定時株主総会では米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが自己株式を除く発行済み株式総数の約10%、総額270億円を上限とする自社株買いなどを提案。結果は否決となったが、ダルトンはその後も株式の買い増しに動いている。昨年12月末時点の自己資本比率は72.0%。現預金602億円、投資有価証券466億円に対し、借入金は1億6500万円にとどまり、更に利益剰余金は2289億円となっている。アクティビストの圧力が継続するなか、株価は4月23日に年初来高値を更新した。 ◎日本パーカライジング <4095> [東証P] 金属表面処理剤で最大手。主要納入先の自動車業界はトランプ米政権の関税問題で事業環境に不透明感が募っており、同社株も下押しを余儀なくされた。結果としてPBR(株価純資産倍率)は0.70倍と低位にある。7月末までを期限に上限1200万株(自己株式を除く発行済み株式総数の9.6%)の自社株買い実施を昨年8月に発表。今年3月末までに639万7800株を取得したが、これは取得予定数の上限の53%となお需給期待が残った状況にある。昨年12月末時点の自己資本比率は72.7%。現預金と投資有価証券の合計額1132億円に対し、短期・長期借入金は4億5000万円と実質無借金。利益剰余金は1678億円に上る。 ◎DTS <9682> [東証P] 金融業界向けに50年以上のシステム開発実績を持ち、企業のDXも支援。主要顧客にNTTデータグループ <9613> [東証P]を持つ。銀行向け案件の拡大を支えに25年3月期は最高益更新の計画と事業を順調に拡大。受注も底堅く推移している。無借金経営で昨年12月末の自己資本比率は75.0%。利益剰余金は494億円に上る。昨年11月発表の自社株取得に関しては今年3月までに満額となる約50億円の買い付けを完了。資本効率の向上にも取り組んでいる。2月14日の高値と4月7日の安値の半値戻しの水準3925円を上抜けており、反騰機運の更なる高まりを期待したい。 株探ニュース