明日の株式相場に向けて=歓喜の弾丸リバウンドとアジア株安の危急
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きょう(8日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比1876円高の3万3012円と急反騰。前日に歴代3位の下げ幅となった暴落を経て、目先は底を打った感触である。きょうの上げ幅は歴代4位で分かりやすい弾丸リバウンドとなった。とはいえ前日の取引時間中に見切り発車で買いを入れるにはかなりの勇気が必要だったはず。下げ幅を広げる米株価指数先物を横にらみに、例えば日経レバ<1570.T>を拾いまくるという芸当ができるとすれば、それはよほどの強者(つわもの)かビギナーズラックの経験が記憶に刻まれた投資初心者のいずれかであろう。もっとも、テクニカル的には底入れを示唆する指標が相次いでいたほか、株式需給面でも積み上がった信用買い残の投げが噴出し、戻り売り圧力が希薄化されたことで、タイミングとしては一両日中に大きなリバウンドがあって全く不思議はなかった。ある意味セオリー通りともいえるが、これで完全に暗雲が切れたとはいえない。中期的には改めて下値を試しに行く場面も念頭に置いておく必要がある。 トランプ米大統領の関税引き上げ政策が単なるディールの材料ではなく、本気で減税の財源として考えているという見方が強まるなか、世界的な貿易戦争が回避しにくいという認識が広がると少々厄介である。当面は株式市場も新たなボックス圏を見つけるまで、上下にハイボラティリティな値動きを強いられることになる。 これまでの米国のリセッションに対する警戒感も、関税合戦となればそれはスタグフレーション懸念に昇格する。案の定というべきだが、イーロン・マスク氏とトランプ大統領の関係性も悪くなっている。マスク氏は米国とEU間の「ゼロ対ゼロ関税」支持のスタンスをとるが、これはトランプ大統領の立場としては受け入れ難い。マスク氏とナバロ大統領上級顧問との丁々発止は後者に分があることは言うまでもなく、早晩マスク氏のトランプ政権離脱は避けられない印象である。 また、米国との貿易戦争では、いち早く名乗りを上げた中国との関税合戦がどういう方向に進むかにマーケットの関心が高い。中国は米国と同率の34%の追加関税を発表したが、トランプ氏は中国がこれを撤回しない限り、中国に対し50%の追加関税を賦課することを表明した。中国側はレアアースの輸出規制も発表しており、米国に一歩も引かない対決姿勢を明示している。トランプ氏としても怯むわけにはいかず、対中半導体輸出規制など他国も巻き込んで一段と締め付けを強化する可能性がある。きょうは東京市場が首尾よく急反騰を演じたが、アジア株市場をみるとそれほど楽観できない状況にあることが分かる。 半導体関連企業の集積地である台湾で加権指数が大幅続落し、一時5.5%安に売り込まれた。何よりもTSMCが約11カ月ぶりの安値に沈んでおり、これを見る限り東京市場のアドバンテスト<6857.T>やディスコ<6146.T>といった半導体製造装置関連が、きょうを境にトレンド転換し反騰機運を高めていくとは思えない。需給次第の相場で上値メドは想定しにくいが、基本的に戻り売りで対処するところだ。このほか、インドネシアやベトナム市場が急落している。米国との貿易戦争でダメージを受ける中国経済のトバッチリが及ぶという思惑が売りに拍車をかけている。日本にとっても対岸の火事ではない。 ただ、日本にとっての光明は、ベッセント米財務長官が日本との貿易協議の担当に指名されたことだ。「強硬派のラトニック商務長官あたりだと風向きの悪さを意識せざるを得ないが、ベッセント氏は安全保障と経済両面で日本を同盟国としてリスペクトしており、比較的いい形で交渉が進む可能性がある」(生保系エコノミスト)という指摘がある。財務長官の登場となれば、為替政策への圧力、つまり円安誘導への牽制も協議の内容に含まれるという意味合いもありそうだが、それは現時点で警戒するのは尚早といえる。 あすのスケジュールでは、午前中に6カ月物国庫短期証券の入札が行われるほか、午後取引時間中に3月の消費動向調査が発表される。3月の工作機械受注額(速報値)にもマーケットの関心が高い。午後3時過ぎに日銀の植田和男総裁が信託大会で挨拶を行う。なお、この日で植田日銀総裁は就任から2年となる。海外ではインド準備銀行が金融政策決定会合の結果を発表、ニュージーランド中銀も政策金利を発表する。米国ではFOMC議事要旨(3月18~19日開催分)に市場の注目度が高い。このほか、米10年物国債の入札が行われる。なお、フィリピン市場は休場。(銀) 出所:MINKABU PRESS