米政権「解放の日」は衰亡の序曲か、高関税で迫られる日本の構造転換 <株探トップ特集>
投稿:
―萎縮する投資家心理、昨年8月のフラッシュ・クラッシュの安値が視界入りの声― 3日の東京株式市場で、日経平均株価は一時1600円を超す下げとなった。トランプ米政権が相互関税の詳細について発表し、日本に対してはEU(欧州連合)よりも高い24%の関税を適用することが明らかとなり、ネガティブ・サプライズと受け止められた。終値は989円安と下げ幅を縮めたとはいえ、なお全体相場は調整が続くと警戒する投資家は少なくない。米国の関税強硬姿勢に対し、日本政府が有効な対応策を講じられていない現実も浮き彫りとなっている。この先の米国の経済指標に関税の悪影響が反映されることとなれば、米国株は一段と調整色を強めることが見込まれ、日本株はそのあおりを直に受ける公算が大きい。 ●トランプ演説に登場したトヨタとソフトバンクG トランプ米大統領は相互関税を発表した4月2日を「解放の日」と銘打ち、ホワイトハウス内の「ローズガーデン」で演説を行った。日本に関する言及で注目を集めたのが、「シンゾー(安倍晋三元首相)は直ちに理解した」との発言だ。日米間での貿易不均衡に対し安倍元首相は米国の意図をくみ取って、取引成立に向けて動いたという。石破政権と米国との距離感を暗に示すことで、ディールに関する日米間の交渉を優位に進めようとの狙いが透けて見える。一方の日本側は粘り強く対話を続ける姿勢をみせているが、米国側からは全く相手にされていないようにも映る。 加えて、トランプ大統領は演説のなかで、トヨタ自動車 <7203> [東証P]とソフトバンクグループ <9984> [東証P]について、対比的に言及している。前者は日米間の貿易不均衡の象徴として、そして後者は米国に繁栄をもたらす賢者として、である。年初来の騰落率をみると、トヨタは20%安で、ソフトバンクGは22%安。ともに日経平均の下落率(13%)を上回っている。株式市場の参加者にとっては、トランプ大統領と企業経営者との距離感は関係ない。「カネを払ってくれる会社としてソフトバンクGは大統領から歓迎されたが、米オープンAIへの巨額出資に伴う財務負担の懸念が将来の成長期待を上回った状況にある」(中堅証券ストラテジスト)との声が出ている。 トヨタをはじめとする「日本車バッシング」には既視感があり、米国の伝統芸能と化しているフシは否めない。米国車が日本に普及しない理由には燃費や車体のサイズなどさまざまな要因があるが、そんなことは米国民にとってはどうでもよく、自国に富をもたらしてくれればよいのである。親米国家である日本の外需企業は、額の違いこそあれ、米国向けの事業を展開するうえでキャッシュアウトが求められている状況と言っても過言ではない。だが、実際にキャッシュアウトをして投資に踏み切ったとしても、将来の企業価値が上がるかどうかは別の話だ。インフレの進行と米国の個人消費の腰折れを伴ったスタグフレーションが現実化すれば、米国への投資資金が捨て金となる可能性もある。 今回の相互関税の発表に至るまでの間、トランプ米政権はメキシコとカナダへの関税、中国への追加関税から、鉄鋼・アルミ関税の引き上げに動いてきた。一連の関税強化策による実体経済への影響は、今後発表される米国の経済指標で確認できるようになる。米国経済の減速が具現化した際のマーケットの混乱を多くの投資家は危惧している。それだけに、全体相場で自律反発的な動きがあったとしても、腰を据えて買いを入れる動きが広がることは当面は見込みにくい。 ●賃上げに続く構造転換は起きるのか 3日の東京市場ではトヨタやSUBARU <7270> [東証P]など自動車株の急落だけでなく、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]や三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]、みずほフィナンシャルグループ <8411> [東証P]が7%を超す下落で取引を終えたことも話題となった。相互関税発表後の時間外取引での米長期金利の急低下を背景に、ドル円相場は一時1ドル=146円台まで円高に振れ、日銀の早期利上げ観測が後退した。半面、武田薬品工業 <4502> [東証P]など医薬品株や、JR東海 <9022> [東証P]をはじめとする鉄道株を含めディフェンシブ株が選好されたほか、賃上げによる消費活動への好影響を見越して小売株も物色された。 長きにわたりデフレが続いた日本経済において、大企業を中心に進む賃上げ自体は、大きな変化の一つといえる。だが、その変化を後押しした大きな要因が、ウクライナ戦争に端を発した物価上昇だったという事実は否定できない。 トランプ大統領は今回の演説で、米国産のコメに対し日本が課している関税についても触れた。日本の農家を守るために講じられた関税ではあるが、これとは別に長年の減反政策でコメの生産力自体は低下している。その裏で、JAなどが出資する農林中央金庫の資産運用規模は50兆円で、JAバンクの貯金規模は100兆円に上る。 郵便貯金は郵政民営化を経てゆうちょ銀行 <7182> [東証P]の誕生に至った。果たしてJAマネーはどうなるか。農政にとどまらず製造業主体の産業構造を含め、トランプ米政権の外圧そのものは、日本の戦後構造を転換するポテンシャルを秘めていると言えるかもしれない。もっとも、構造転換の過程で発生する痛みにどう対処するのかについては政治の出番であり、現体制を見渡す限り、こうした変革は望み薄と言わざるを得ない。関税発動に伴う米国でのスタグフレーション進行と、長期的な日本の国力の低下という日米衰亡シナリオに向き合わざるを得ない局面に我々は立たされている。 市場では「『フラッシュ・クラッシュ』で過去最大の下げ幅を記録した昨年8月5日のザラ場安値(3万1156円)までの調整があってもおかしくない」(前述の中堅証券ストラテジスト)との見方もある。4月3日終値から3580円程度下落した水準だ。ここで下げが一服し反騰に向かえば、チャート上でダブルトップを形成し、上昇機運が一気に高まることも期待できる。こうした可能性を頭の片隅に置きつつ、外部環境とともに相場の落ち着きどころを探る必要に迫られることとなりそうだ。 株探ニュース