トランプ関税発動で必然的に浮かび上がる有望銘柄群とは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
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◆アルゼンチンを目指すトランプ政権の経済政策 4月2日に詳細が発表されるアメリカの各国への相互関税、3日に発動が予定される輸入自動車への25%の追加関税。焦点となっている2つの「トランプ関税」発動を目前に控え、ここに来てますますマーケットの「不確実性」が高まっている。この1カ月の一連の流れを総括すると、1月20日の大統領就任式以降、マーケット・フレンドリーだと思われていたトランプ政権が、必ずしもフレンドリーではないという事実があらわになってきた。これを端的に証明したのが、3月7日(現地時間)に報じられた、スコット・ベッセント財務長官による「デトックス(解毒)期間」発言だ。 「公的支出の抑制を進める中で、解毒する期間が発生し、経済の自然な調整は起こり得る」というこの発言は、バイデン前政権時代の「大きな政府」から「小さな政府」への移行には、一時的に景気を下押しする作用が働くことを財務長官自らが認めたことになる。そして、それ以降の1カ月間のトランプ政権の経済政策を見ていて感じるのは、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領の政治手法の影響だ。 世界初のリバタリアン(個人的な自由と経済的自由を尊重する政治思想)の国家元首と言われるミレイ氏は、昨年のアメリカ大統領選勝利後にドナルド・トランプ氏が初めて面会した他国首脳として知られる。一時はハイパーインフレに陥りながらも徹底的な歳出削減を続け、就任から2年で財政黒字を実現。インフレから完全に脱却したとは言えず、同国の経済再建は道半ばだが、それでも「小さな政府」の実現に向けて剛腕を振るい続けている。トランプ政権はこの姿を追っている気がする。 では、「デトックス期間」を迎える今後の米国株の投資戦略は、どのように考えればいいのだろうか。もちろん、一夜にして発言を変えるトランプ大統領にマーケットが振り回される状況は、当面は続くだろう。この渦中で重視すべきなのは、雇用統計や景況感指数といったマクロの経済指標以上に、企業業績、つまりミクロのデータだ。マクロのデータは遅行して表れるが、ミクロのデータは足もとの景気動向をいち早く映す。企業の決算発表で、設備投資計画などのガイダンス(業績予測)や経営者のコメントを精査すれば、トランプ政権下で実体経済がどのように推移しているのかを推し量ることができるのだ。 ◆「デトックス」相場で成長期待が高まる「資本財」「エッセンシャル」セクター そうした観点で注目したのが、決算シーズンの本格化を前に発表されたフェデックス、ナイキ などのシクリカル(景気敏感)セクター、そして投資銀行のジェフリーズ・ファイナンシャル・グループ の決算だったが、いずれもガイダンスが市場予想を下回った。金融機関では先日、ゴールドマン・サックス・グループ の大規模なリストラ(人員削減)計画も伝えられたが、これらの動きを見ていると、やはり「デトックス」の副作用はすでにアメリカの実体経済に浸透し、「不確実性」が高まるとともに企業活動が“フリーズ”し始めているということが分かる。 そこで「デトックス期間」を迎え、「不確実性」が高まる中でも成長が期待できるいくつかのテーマとセクターを挙げてみたい。まず一つは、トランプ大統領の最大の目標の一つでもある、製造業の復活を担う「資本財」のセクターだ。スリーエム 、ハネウェル・インターナショナル 、GEエアロスペース などの企業が代表例で、今年に入って株価はもみ合いを続けてきたが、いずれも底値が堅く、そろそろトランプ銘柄としての本領を発揮する気配を感じる。 「不確実性」の高まりに対処するならやはり、生活必需品を扱う「エッセンシャル」セクターは本命と言えるだろう。代表的な銘柄としてはアマゾン・ドット・コム 、ウォルマート 、コストコ・ホールセール の3社が挙げられるが、中でもアマゾンは、現在の市場コンセンサスでは、25年12月期の予想PERが28倍、26年12月期では23倍水準にまで下がっていて、バリュエーション面でも魅力が増している。AI(人工知能)だけではなく、本業の小売業のポテンシャルでも同社にはさらなる成長性を感じるのだ。 ◆自動車関税発動で進む「キューバ二ゼーション」、脚光浴びるのはこれらの銘柄 アマゾンに関してはもう一つ、昨年末に伝えられたひとつのニュースに大きな関心を持っている。韓国・現代自動車と提携して自動車のEC(電子商取引)販売に乗り出したというニュースだ。これはアマゾンが販売会社の商品を仲介するマーケット・プレイスの方式を採っているとのことなので、このプラットフォームが成功すれば新車販売のみならず、中古車販売にも目が向けられ、まもなく中古車流通市場に参入するのではないだろうか。事実、同社グループで自動車販売を担うアマゾン・オートの経営陣もこの様な発言をしており、可能性が高いと見られている。なぜ、このニュースに注目したのか。言うまでもなく自動車関税の影響だ。 ご存じの通り、アメリカでは自動車は小売業が扱う食品などと同様に生活必需品だ。だがトランプ大統領が主張する通り、関税導入でアメリカのメーカーの自動車を消費者が選ぶようになるかというと、それは疑わしい。フォード・モーター にせよ、ゼネラル・モーターズ にせよ、旧クライスラーを傘下に持つステランティス にせよ、自動車部品を海外に依存しているアメリカのメーカーも、関税の影響を逃れることはできず、大幅な値上げを余儀なくされるだろうからだ。実際、先日伝えられたゴールドマン・サックスの試算でも、自動車関税は新車価格を平均11%以上押し上げるという。新車の価格がそれだけ上昇するとすれば、アメリカの国民はどのような消費行動を取るだろうか。 先日、米投資情報誌「バロンズ」に興味深いレポートが掲載された。「キューバニゼーション」という言葉を使って、トランプ関税によってアメリカ社会に訪れる風景を予見したのだ。テレビや映画などで見かける風景なのでご存じの方も多いだろうが、社会主義国・キューバでは1960年代、70年代の古いアメリカ車が今でも人々の主要な交通手段となっている。経済制裁が続き、西側の新車に加え、パーツが入手しづらい環境にあり、加えて所得水準が依然として低いこの国では、新車ではなく、クラシックカーをメンテナンスしながら乗らざるを得ないのだ。 いささか誇張された表現かもしれないが、トランプ関税の影響によって少なからず、アメリカにもこうした風景が展開されるかもしれないという趣旨のこのレポートは、示唆に富んでいるとは言えないだろうか。そこで新たな成長セクターとして浮かんでくるのが、中古車関連のビジネスだ。全米で幅広い中古車販売ビジネスを手掛けるカーマックス 、中古車販売のオンラインプラットフォームを主力とするカーバナ などの企業で、いずれも足もとの株価はしっかりしている。 さらに人々が車を長く乗り続けるとなると、必然的に車の修理ビジネスにも光が当たる。自動車部品や工具などを販売するオライリー・オートモーティブ 、オートゾーン といった企業で、こちらはいずれも年初来、株価が右肩上がりで上昇している。そもそも、アメリカは日本と比べて「DIY」の先進国だ。新車の価格が大幅に上がれば、無理をして新車を購入するのではなく、自分で修理をして今の車を長く乗る。そうした消費者心理が働くのは自然な流れなのではないだろうか。トランプ関税によって、新車価格の上昇が不可避となったいまだからこそ、事業拡大が見込まれるセクターの代表格だ。 今後、中長期的な視点で見れば、トランプ大統領が唱えるように、関税発動によってアメリカの自動車産業が息を吹き返す可能性はあるかもしれない。だが、そのためにはサプライチェーンを抜本的に組み直す必要があり、少なくとも数年単位の時間が必要になる。その間、バロンズの伝える通り、「キューバニゼーション」に近い風景がアメリカで展開されたとしても不思議ではない。これらの銘柄は、足もとで株価が上昇しているものもあるが、そう考えれば、相場の流れに逆らわなくてもいいだろう。 ◆年後半、「トランプ2.0」でまだ切っていない3枚のカードに期待 昨年までの相場の主役だったマグニフィセント・セブンの投資判断はどう考えればいいのだろうか。アマゾンは別として、まず挙げたいのは、業績が好調でありながら2月14日に740ドル強の高値を付けて以来、調整を続けているメタ・プラットフォームズだ。現時点の570ドル水準の株価は、25年12月期の市場コンセンサスでは、予想PERが23倍、26年12月期では20倍にまでディスカウントされている。すでにAI効果が事業に直結している同社は、主要株価指数と比べてバリュエーション面で魅力的に映る。 一方、大統領選後、株価が急騰急落したテスラ は、トランプ銘柄としての“材料”は枯渇した感がある。とは言え、長期的には侮れないと考えている。先日開催されたエヌビディア の年次開発者会議、「GTC2025」でもジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)がアンドロイド社会の将来像を力説していたが、最先端AIの進化によってすぐにではないにしても、こうしたビジョンが現実化する可能性は低くない。ロボティクス銘柄の筆頭として、近い将来、改めて同社に対するマーケットの評価が高まるのではないだろうか。 ともあれ、トランプ大統領の一挙手一投足に、世界のマーケットが揺り動かされる状況はしばらく、少なくとも年前半は続くだろう。景気は停滞とは言わないまでも、足踏みをするだろうし、この間、株価はボラティリティ(変動率)の高い展開を見せるはずだ。だが年後半へ向けては、新年の本コラムでも記した通り、トランプ政権の政策効果が表れるのではないかという見方は変わらない。 関税政策の話題ばかりが先行しているが、米国株市場にとって期待できるのは、トランプ政権にはまだ切っていない3枚のカードがあることだ。そのうち2枚はトランプ大統領の公約でもある規制緩和と減税、そしてもう一つは、「トランプ・プット」ならぬ「パウエル・プット」だ。 どういうことかと言うと、年初の段階では今年のFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げは3回前後と見られていたが、トランプ関税によってインフレ再燃の懸念が高まるとともに、金融緩和を今後も継続できるのかという疑念も生じてきた。これが米国株の上値を抑えていた一因ともなっていた。だがここに来て、パウエル議長が景気の状況を冷静に捉え、ある時点で利下げのピッチを速める判断をするのではないかという見方がマーケット関係者の間で囁かれるようになってきたのだ。 これら3枚のカードが切られれば、再び米国株マーケットは上昇局面に転じるだろう。だが、それまでは「不確実性」が高い状況が続く。そうした前提に立てば、今回挙げたような銘柄に着目することが当面の最善策と言えるのではないだろうか。 【著者】 大山季之(おおやま・のりゆき) 松井証券マーケットアナリスト 1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。 株探ニュース