「ストレスチェック」完全義務化で「メンタルヘルス関連」上昇加速へ <株探トップ特集>
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―労働安全衛生法の一部改正が閣議決定、全体の96%の企業が新たに対象へ― 政府は3月14日、企業が定期的に従業員のストレスの状況について検査を行う「ストレスチェック」について、全ての企業に義務付けることを柱とした「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」を閣議決定した。今国会で改正法が成立すれば、公布から3年以内に施行されることになる。 「ストレスチェック」が現在実施されていない事業所に広がることで、同市場は更なる拡大が期待できる。それに伴い、メンタルヘルス関連企業のビジネスチャンスも拡大が見込まれている。 ●ストレスチェックとは 「ストレスチェック」とは、企業が従業員のストレス状態について知るために行われる検査のことで、従業員がストレスに関する質問に答え、その結果を集計・分析・評価することで自分がどのようなストレス状態にあるかを知るというもの。結果は従業員に直接通知され、本人の同意なく会社に知らせることはない。また、高ストレス状態と判定された場合は、産業医との面談を勧められる。従業員は自分のストレス状態を把握できる一方、企業は個人情報がわからない形で全体の結果を分析し、チームや部署ごとにどのようなストレス状態の傾向があるかなどを知ることができるメリットがある。 働き方改革関連法に基づく労働安全衛生法の一部改正により、50人以上の労働者(パートなども含む)を抱える事業所は2015年12月からストレスチェック実施の対象となり、年1回以上の実施が義務化された。その際、従業員が50人未満の場合は努力義務とされたが、今回の法改正では50人未満の事業所についても実施を義務化する。 ●ストレスチェック義務化対象拡大の背景 15年にストレスチェックが義務化された際、50人未満の事業所が努力義務となったのは、担当者の作業負担への配慮や零細企業ではプライバシー保護が難しいといった点などが考慮されたためだった。 ただ近年、精神障害の労災決定件数の増加などで労働者のメンタルヘルス対策の徹底が喫緊の課題となったことに加えて、外部機関のサポートが充実しプライバシー保護が強化されたことなどから、50人未満の事業所についてもストレスチェックを行えるようになったと判断されたようだ。これにより今回、従業員50人未満の企業についても義務化されることにつながった。 ●従業員50人未満の企業は全体の96% 今回のストレスチェック義務化対象の拡大の影響は大きいとみられている。 23年6月に総務省・経済産業省が発表した、国内全ての事業所・企業を対象に実施した「令和3年経済センサス―活動調査」によると、全国約515万事業所のうち、従業員50人以上は全体の3%強に過ぎない。残りの約96%は従業員50人未満の事業所であり、495万事業所が新たにストレスチェックの対象となる。 また、従業員数では現在の対象が約2500万人であるのに対して、約3300万人が新たにストレスチェックの対象となり、これらが加わることで対象となる人数は一気に2倍以上となる。 従業員50人未満でも既にストレスチェックを実施している企業もあるが、本格的に実施されるのはこれからだろう。 ●産業医の活躍の場も増加へ 対象となる事業所が増えることで、ストレスチェックサービスを提供する企業には特需が期待できるが、あわせて産業医に関連する企業にもビジネスチャンスの拡大が期待されている。 現在、従業員50人未満の事業所では産業医の選任も義務ではなく、努力義務となっている。ストレスチェックの実施に際しては、産業医による高ストレス者への面接指導やその結果に基づく措置を行う必要があり、産業医の活躍の場も増えそうだ。 そこで今回は、ストレスチェックサービスやメンタルヘルス、産業医などに関連する銘柄に注目したい。 ●ストレスチェックサービス提供企業に注目 アドバンテッジリスクマネジメント <8769> [東証S]は、ストレスチェックサービス大手で、ストレスチェックから始める組織改善ワンストップサービス「アドバンテッジ タフネス」やストレスチェックとエンゲージメントサーベイをまとめた「アドバンテッジ タフネス エンゲージメントプラス」を提供。更に産業医サービスなども展開するクラウド型健康管理サービス「first call」の運営も行っている。25年3月期第3四半期累計連結営業利益は6億600万円(前年同期比2.1倍)と大幅増益で着地。通期では同9億4000万円(前期比29.5%増)を見込む。 勤次郎 <4013> [東証G]は企業の「働き方改革」と「健康経営」を支援するソリューションを提供しており、勤怠システムの機能をベースにHRM(人的資源管理)データ、健診データ、ストレスチェックデータ、生活ログデータを統合管理するヘルスケアシステム「Universal勤次郎」を提供する。24年12月期は連結営業利益7億2900万円(前の期比27.6%増)で着地。25年12月期も同9億5300万円(前期比30.6%増)と連続大幅増益を見込む。 バリューHR <6078> [東証P]は、産業保健関連サービスの一環としてストレスチェックをインターネット上で実施、管理できるストレスチェックシステムサービスを提供。単独での利用のほか、同社の健診代行サービス(健診予約システム、健診結果管理システム)と併用することで、健診業務と連携したフィジカル・メンタルの健康管理体制を構築することができるという。24年12月期は、顧客増加に対応するためのシステム開発強化や人員増強などで連結営業利益は11億1700万円(前の期比19.4%減)と減益となったが、25年12月期は同14億5500万円(前期比30.2%増)とV字回復を見込む。 メンタルヘルステクノロジーズ <9218> [東証G]は、企業のメンタルヘルスケア体制構築をサポートするさまざまなソリューションを提供しており、産業医や保健師による健康管理指導と社員の心身の健康をチェックするクラウド型メンタルヘルスケアサービスをパッケージ化した「産業医クラウド」を提供。そのほか医師紹介やデジタルマーケティング支援サービスなどを展開している。24年12月期は医師の転職市場の流動性が低下したことでメディカルキャリア支援事業が大きく落ち込み、連結営業利益は1億900万円(前の期比78.1%減)と大幅減益だったが、25年12月期は同9億~10億円(前期比8.2~10.1倍)と大幅増益を見込む。 アトラエ <6194> [東証P]は昨年7月、企業向け組織力向上プラットフォーム「Wevox」にストレスチェック機能を搭載。エンゲージメントサーベイ(組織のエンゲージメントを評価するために行う調査)と合わせて活用することで、組織のパフォーマンス向上に貢献するという。25年9月期第1四半期は、前年同期が連結決算での開示であったため比較はないものの、単独営業利益3億6700万円で着地。通期では同21億円(前期比26.5%増)を見込む。 このほか、子会社がストレスチェックの実施から分析、改善に向けたコンサルティングまでを提供するエムスリー <2413> [東証P]、企業向け産業保健業務サポートサービス「リモート産業保健」でストレスチェック機能を提供するエス・エム・エス <2175> [東証P]、子会社が産業医の紹介と業務サポートを行う「ワーカーズドクターズ」を運営する日本調剤 <3341> [東証P]などにも注目。また、昨年10月に出退勤時にスマートフォンのカメラに顔をかざすことで、従業員のストレス度や疲労度を測る企業向けPHR(パーソナルヘルスレコード)システム「カルテコworkwell」の販売を開始したメディカル・データ・ビジョン <3902> [東証P]も関連銘柄として挙げられよう。 株探ニュース