エヌビディア1強体制の終焉、ではこれから投資すべき銘柄は?<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

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コラム

◆半年で株価が急上昇、好決算相次ぐハイテク準大手企業

 アメリカ企業の2024年12月期決算が出そろった。昨年後半から思うところがあってカバレッジ対象を準大手や中堅クラスのIT企業に広げてきたのだが、その中で特に目立った企業を数社ピックアップしてみたい。というのもこれまでAI(人工知能)相場をリードしてきた企業だけを投資対象にしていると、どうしても銘柄が限られてしまう。半導体セクターならエヌビディアに台湾積体電路製造(TSMC)、ハイテク企業でもマイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コムといったGAFAMに絞られてしまう。正直、投資する立場からすると、少々、飽きが生じてしまっているのではないかと思う。

 そこで今回の決算内容を見てみると、こうした準大手や中堅企業が案の定、各社とも大手企業より成長性が高く、株価の上昇率も勝っているのだ。例えば、半年で株価が2.8倍を超えたパランティア・テクノロジーズ、1.4倍超えのフォーティネット、1.7倍超のスポティファイ・テクノロジー、1.4倍超のネットフリックスといった企業で、各社とも生成AIを実際のサービスに組み込んで成果を出しつつある。

 パランティアの24年12月期は売上高が前年比28.8%増の28億6500万ドル、営業利益は同2.6倍増の3億1000万ドルと躍進した。生成AIを使ったビッグデータ解析を応用した意思決定支援システムの評価が高く、前四半期に米軍向け、民間向けとも重要な契約を獲得するなど、完全にこれまでより高い成長フェーズに入った感がある。ただし、トランプ政権が国防費削減を言い出しているので、少し様子を見る必要はあろう。

 フォーティネットはネットワークセキュリティの中で統合脅威管理(UTM)という分野のトップ企業で、24年10-12月期は売上高が前年比17.3%増の16億6000万ドル、営業利益が同49%増の5億7400万ドルとなった。生成AIが普及して企業の情報システムに組み込まれるようになると、セキュリティのニーズは確実に高まる。同社の場合、売上高が急増することはないかもしれないが、今後も、高い利益成長が見込めるだろう。

 ネットフリックスも生成AIを活用してレコメンデーション機能(過去の視聴履歴から推奨リストを提示する)やランキング機能を強化したことが奏功し、24年12月期は売上高390億ドル(前年比15.6%増)、営業利益104億1700万ドル(同49.8%増)と好調だった。同社は有料会員の増加に加えて、今期から広告展開も本格化するため、今後も中長期的に高い成長が期待できる。26年12月期には売上高525億ドル、営業利益175億ドルに達するのではないかと予測している。
 
 スポティファイは24年12月期の売上高が前年比18.3%増の156億7300万ユーロ(約164億5600万ドル)、営業損益は前年の赤字から13億6500万ユーロ(約14億3300万ドル)の黒字へと転換した。面白いのは、10周年を迎えた「スポティファイまとめ」と呼ばれる年末企画で、これは1年間の履歴をもとにユーザーごとの年間ランキングとプレイリストをカスタマイズして展開するというサービスだ。昨年は二人のAIホストが登場し、ランキングについて語り合うという企画を展開したが、これが大好評で2億4500万人を超えるリスナーが参加したという。AIの顧客サービス導入の好例だろう。

◆ビッグテックの中ではメタだけがAI導入の目に見える成果を

 これらの各社は業績が好調であるとともに、株価がここにきて急上昇しているが、背景にはやはり、昨年後半から投資家たちが投資対象をシフトしていることがあるだろう。はっきり言ってしまえば、昨年前半にエヌビディアで稼いだ利益をどこに移動すればいいか、と考えた結果ではないだろうか。

 エヌビディアは結局、昨年1年間で株価が2.7倍、2年間なら9倍になったわけだが、今年も同じようなパフォーマンスを上げると考えるのはさすがに無理がある。他のハイテク大手を見ても、生成AIブームの仕掛け人であるはずのマイクロソフトでさえ24年10-12月期は前年同期比で最終利益が10%程度しか伸びず、株価も24年の1年間で10%超しか上昇しなかった。ではどこに資金を振り向ければいいかと考えていたところに、こうした準大手クラスの企業の業績が伸び始めていたというわけだ。

 もちろん、AIムーブメント自体はこれからも続くだろうし、ハイテク大手もその恩恵を受けることは確かだろう。だが、各社が力を入れているAIへの巨額投資が生きるのかはまだ不明だ。GAFAMの中ではアマゾンが24年12月期は北米事業、広告、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)ともに高い成長を続けているが、やはりAIへの投資額が増え続けている。23年は約600憶ドル、24年は約800億ドルだから、このままいけば25年は1000億ドルに達するかもしれない。果たしてそれに見合う成果を生み出すことができるのか。まだ過剰投資と決めつけることはできないが、現時点では成果が上がっているとは言えない。

 一方、目に見えて成果が上がっているのがメタ・プラットフォームズだ。24年12月期は売上高が前年比21.9%増の1645億100万ドル、営業利益が同48.4%増の693億8000万ドルと想定以上の高い成長を遂げた。主力の広告事業では、同社の提供する生成AI広告作成ツールを活用する広告クライアントの数が急増している。その数は半年前の100万から400万に達したといい、生成AIが売り上げ増に直結しているのだ。

 ところで、大手クラウド3社にメタ・プラットフォームズを含めた各社は、これまで競うようにAIへの大型投資を続けてきたが、ここにきて各社ともその在り方を見直しているという。その一つが内製AI半導体の強化で、これによって存在感が急速に高まっているのがブロードコムだ。同社は、顧客企業の注文に応じて半導体を設計するオーダーメード型の半導体を提供している。これをもとに各社が内製AI半導体をつくっているのだ。

 昨年12月の同社決算では、内製AI半導体(特注型AI半導体)の顧客は3社としており、社名は公表されなかったが、クラウドサービス大手3社と推定できた。どうやらここにメタとアップルも顧客に加わったようだ。現時点ではエヌビディアと同等の性能を持つ半導体はつくれていないようだが、ビッグテック5社がエヌビディアの40~50%安いと思われるブロードコムの半導体を活用し始めた意味は小さくない。

◆「ディープシーク」は「CUDA」なしで開発された?

 そして、世界を騒がせている「ディープシーク」については、各社とも低コストでの開発やプログラムの最適化などに対して高く評価している。それが各社の設備投資にどう影響していくのか。「ディープシーク」を見るときのポイントは二つある。一つは、このモデルが「知識蒸留」によってつくられているということだ。この手法に関しては、オープンAIの技術の不正入手が疑われ、現在、調査が進められているが、少なくともAIの強化学習には効果的だということが実例として示されたことは確かだ。

 もう一つ、より重要なのは「ディープシーク」が、エヌビディアが提供しているAI開発支援ソフトウェア「CUDA(クーダ)」を使用しないで開発されたということだ。「CUDA」は世界中の開発者たちが使用する非常に優れたソフトウェアで、エヌビディア製のGPU(画像処理半導体)しか使えない。これがあったからこそ同社はAI半導体の市場を独占し、「CUDA」の利用料を含めて高価格を維持することができたわけだ。

 ディープシーク社の論文を読んだ多くの開発者たちが指摘しているところによると、「ディープシーク」は「PTX(Parallel Thread Execution)」と呼ばれるエヌビディアのGPU向け仮想アセンブリ言語を使って直接GPUのプログラミングを行っている。通常は、「CUDA 」~「PTX 」~ 「SASS(ハードウェア実行コード)」という流れになるが、「CUDA」を使わず、「PTX」をいきなり使ってプログラミングしているのだ。GPU自体はエヌビディア製の「H100」、「H100」の処理スピードを落とした「H800」、低性能版の「H20」の3種類のAI半導体が使われているという。これが本当だとすると、エヌビディア製のGPUにプログラムを書き込むには「CUDA」を使わなければならないという、これまで考えられていた常識が覆ることになる。

 いま、世界中の技術者や開発者がディープシーク社の論文の解析を続けている。「ディープシーク」に関しては、世間では中国への情報漏洩のリスクが大きく取り沙汰されているが、専門家たちが本当に注目しているのは、この開発手法の部分と思われる。「ディープシーク」の開発手法が解き明かされ、「CUDA」抜きでAIを開発する手法が定着すれば、エヌビディア1強の構図は崩れるかもしれない。

◆エヌビディア決算の注目ポイントは2026年1月期第1四半期のガイダンス

 つまりこの1カ月で明らかになったのは、エヌビディアにとって二つの大きな悪材料が出現してしまったということだ。一つは顧客企業各社が取り組む内製AI半導体。そしてもう一つは「CUDA」を使わずに高性能の生成AIを開発する手法が生み出される可能性が出てきたことだ。そんな中で、日本時間の明朝(2月27日)に同社の25年1月期決算が発表される。

 まず昨年来、同社が発表しているように、25年中は最新GPU「ブラックウェル」の行き先は決まっている。これはこの先、どう状況が変わろうがキャンセルできないものだろう。つまり、今期26年1月期に関しては同社の好調は維持されるだろう。ただし、どの程度の「好調」になりそうなのかは決算電話会議を聞いてみないとわからない。現在の市場予想では、26年1月期には売上高が2倍近くになるという強気の見方もある。同社ではガイダンス(会社予想)を四半期ベースでしか発表しないので、25年2-4月期のガイダンスの数字を見て年間の業績を予測せざるを得ないが、この部分は特に注目だろう。さらに問題なのは来期、27年1月期だ。もし、大手ITの設備投資抑制がはっきりすれば、来期は業績の伸びが大きく鈍化する可能性もあろう。

 同社の決算では、トランプ関税の影響も考慮しなければならない。自動車への25%の関税が決まったが、同様の関税を半導体にもかけるとなると、TSMCによってつくられている半導体の価格に上乗せされ、ただでさえ高額のエヌビディア製GPUの価格がさらに上がってしまう。もちろん、これはエヌビディアだけではなく、ファブレス半導体メーカーすべてが影響を受けることになり、AI半導体ブームに水を差す結果になる。

 高関税政策の影響がないのは、アメリカ国内に工場を持つインテルだけということになるが、と言ってインテルに高性能のAI半導体をつくる能力はない。そこでにわかに持ち上がったのが、TSMCがインテルの工場を運営するというプランだ。同時にブロードコムがインテルの設計部門を買収するという話が持ち上がっている。

 そもそもインテルは、この10年あまり凋落の一途を辿ってきた。ひと言で言えば、パソコン用CPU(中央演算処理装置)にプライドを持ち過ぎて時代の変化に対応できなかったということだ。アップルから依頼された初代「iPhone(アイフォーン)」用の半導体開発を断ったことが大きなターニングポイントとなり、その後もEUV(極端紫外線)露光技術で出遅れ、前CEOのパット・ゲルシンガーが立てた微細化スケジュールは無理があり過ぎて成果を上げることができていない。ASMLホールディング製の最先端EUV露光装置であるHigh-NA型EUV露光装置は世界で最初に同社に納入されたが、とても同社の技術力では使いこなすことはできないだろう。

 そんな中で出てきたTSMCとの協業プランだ。これがもし、本当に実現するならインテルにとっても決して悪い話ではない。工場の運営委託というスキームなら技術的なノウハウがTSMCからインテルに流出することはないだろうが、アメリカ国内のインテルの工場で最先端半導体がつくられるとなると、これまでの半導体セクターの図式が変化するだろう。一時は穏当な路線にシフトしたと思われていたトランプ大統領が、かなり不安定な動きをするようになってきた中で、半導体セクター投資のわずかな光明と言えるかもしれない。

 とは言え、「ディープシーク」登場以来の現在の状況を総括すると、今年はハイテク各社がAI開発の設備投資を抑える動きが顕在化する可能性が高い。そこでマイナスに作用するのは半導体産業、なかでも利益を独占してきたエヌビディアだろう。半面、開発コストの削減はAIをサービスに落とし込む側、つまりIT企業全般には間違いなくプラスに働く。中でもビッグテックほど事業の規模が大きくない準大手や中堅企業では、AI効果で業績を急拡大させる可能性が高まる。

 つまり半導体セクターは「売り」で、IT企業、特にAIによってユニークなサービスを生み出す準大手や中堅企業は「買い」と言える。もちろん、前述した企業以外にもまだ、あまり注目されていないが有望な企業は数多く存在するはずだ。こうした視点を持って、これからの米国株への投資戦略を考えてみるべきだろう。

【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。


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