壮大な社会実験「トランプ2.0」で買うべき銘柄とは?<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

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コラム

◆「何でも買い」の局面は終了、地殻変動がより鮮明になった半導体セクター

 2024年も残りわずかとなったが、今年最後の有力企業の決算として注目されたマイクロン・テクノロジーの24年9-11月期決算が発表され、翌日の同社の株価は急落した。これは何を意味しているのだろうか。決算の内容を見ると、AI半導体向けのHBM(広帯域メモリー)は好調だが、それ以外の分野、パソコンやスマートフォン向けの製品が振るわなかったという。それ以外の分野とは、はっきり言えば、アップルの「iPhone16」向けの製品の需要が伸びなかったということだ。いま、アメリカの市場関係者の間では、同製品の売上高の下方修正が噂されている。それを裏付けるのが、ソニーグループ <6758> の決算だ。

 ソニーの25年3月期第2四半期決算は全体としては想定以上の内容で株価も好感したが、よく見てみると、半導体部門の25年3月期業績予想が下方修正されている。この部門はスマートフォンのカメラに使われるイメージセンサーが主力製品で、今上期は好調だった。下方修正の要因は、大口顧客の下方修正、要するにアップルのiPhoneの生産計画が下方修正されたことによるものと思われる。同社に限らず、ここにきて、半導体セクターの株価が一部を除き、総じて上値が重くなっている。この状況を見て感じるのは、前々回のコラムでも記したように、この1年間、生成AIの登場とともに株式マーケットの主役となっていた半導体セクターの構造変化が鮮明になってきているということだ。

 まず、半導体の進化イコール微細化という構図は崩れてきている。ここ数年、微細化の流れをけん引してきたのは端的に言えば「iPhone」だった。ところが、足もとのiPhoneの販売台数の伸びは前年比一桁台にとどまっている。今販売されている「iPhone16」シリーズの次は25年秋に発売される見通しでチップセットは3nm(ナノメートル)、その次の26年秋の新製品は上位機種に最先端の2nmチップセットが搭載されると思われる。この計画そのものには変更はないだろうが、iPhoneの販売が停滞したままだと、iPhone向けチップセットの生産を請け負う台湾積体電路製造(TSMC)の2nm設備投資の規模が下方修正されることがあるかもしれない。ちなみに、2nmの量産開始(ウエハ投入開始)は25年の年末、実際に製品が出てくるのは26年夏と思われる。

 いま、需要が爆発しているAI半導体については、エヌビディアの最新機種、「ブラックウェル」が4nm、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)の現行機種が5nmと6nmラインで製造されている。今の最先端である3nmよりも1~2世代前の微細化世代になる。微細化はウエハに回路を焼き付ける前工程に属するが、AI半導体を増産する場合には、前工程の既存設備の増強程度で十分で、むしろ、HBMを生産するためのメモリー投資とパッケージングをしていく後工程への投資が重要になる。

 ひとつ言えるのは、これまでAIブームの恩恵を受けると考えられてきた半導体製造装置メーカーは、いったんマークから外したほうがいいのではないかということだ。特に微細化ニーズを一身に受けてきた、EUV(極端紫外線)露光装置のASMLホールディングや同じくEUV欠陥検査装置のレーザーテック <6920> は需要拡大が鈍化する可能性がある。中国向けの製品比率が高いアプライド・マテリアルズやラム・リサーチ、東京エレクトロン <8035> なども同様だ。

 後工程のディスコ <6146> やアドバンテスト <6857> は、HBMの需要が拡大しているのでまだいいが、パソコン向け、スマホ向けの半導体市況が低迷すれば、ある程度の影響は免れないだろう。

◆3日で株価が4倍超! クオンタム暴騰の背景とは?

 一方、足もとでは、今年のAI相場の主役だったエヌビディアの株価も上値が重くなっている。この状況を受け、「AI相場に陰り」などと各メディアは伝え出しているが、冷静に考えて欲しい。年初の50ドルが一時は3倍の150ドルにまで上昇したのだ。多くの投資家はもうすでに同社株で十分にもうけたはずで、クリスマス休暇を前に利益を確定したい、という心理が働くのは当然のことではないだろうか。

 来年からは最新AI半導体「ブラックウェル」の出荷が始まり、デバイスだけではなくAI開発支援ソフトウェア「CUDA(クーダ)」もAI構築のために欠かせないツールになっている。AI半導体の製造を請け負うTSMCとともに、業績拡大は25年以降も続くはずで、両社に関して懸念があるとすれば、トランプ氏の言動だけだろう。

 ただし、25年も24年同様の株価上昇が期待できるかと言えば、それは別問題だ。成長が続くと言っても、例えばエヌビディアなら24年のように2倍や3倍の上昇というのは期待できず、せいぜい40~50%の上昇がいいところではないだろうか。この1年、マグニフィセント・セブンにTSMCを加えたビッグテック各社が最大の資金流入先だった。だが来年は、これ以外の企業へと物色対象が拡大していくのではないだろうか。

 先週、NASA(米航空宇宙局)からの受注を発表したクオンタム・コンピューティングの株価が3日で4倍超に暴騰したが、これなどは物色拡大の典型例だろう。同社が手掛ける量子コンピューターの技術は、これまでも何度か株式マーケットの話題になってきたテーマだ。だが2年前、生成AIの誕生によって一気に影が薄まった。一時は「夢の技術」とさえ言われた量子コンピューターの技術が、生成AIでかなりの部分、代替えできることが分かってしまったのだ。同社の株価も低迷し、業績も赤字続きで誰も見向きもしないような銘柄になっていたところに、好材料が出て、AI以外の物色対象を探していた短期資金が一気に流入した、といったところではないだろうか。

 
◆25年に注目すべきはクラウド"ティア2"企業とセキュリティ関連

 短期資金の動きはともかく、25年に向けての投資戦略としては、エヌビディアやTSMCなどのAI半導体デバイスメーカー、そしてアマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベットなどの大手クラウドサービスから物色対象を拡大し、AIの流通過程でより下流に位置する企業に焦点を当てるべきだろう。

 中でもまず挙げたいのが、大手3社に続くクラウドサービスの"ティア2"と呼ばれる企業群だ。クラウドサービス事業を増強し、生成AI事業を拡大中のオラクルやIBM、自社サービスにAIを組み込むセールスフォース、サービスナウといった企業だ。24年はAI半導体の需要不足が続いたが、その状態もかなり改善され、ようやくこうした準大手クラスの企業にもAI半導体が行き渡るようになってきた。その結果、事業に生成AIの効果が表れ始めているのだ。

 例えば、セールスフォースでは23年、24年と大規模なレイオフを実施したが、23年はコロナ禍の中で雇いすぎた人員の削減だったのに対して、24年は生成AIによる人員の再配置が目的だったと思われる。単純作業やコールセンターなどこれまで人手に頼っていた部門を生成AIで賄うことができるようになり、その分、事業拡大に直結するマーケティング部門の人員増に結び付けることができるようになったのだ。

 実際に生成AIが経営合理化に役立つことが分かれば、各企業の経営者もこぞって後を追うだろう。生成AIの社会への浸透が始まった証でもあり、来年以降もこのムーブメントが続いていくだろうと考える一つの根拠でもある。

 ほかに注目すべきセクターとして挙げたいのは、セキュリティ関連セクターだ。今後は、生成AIの普及によって、重要データが従来以上に社員に共有されるようになる。セキュリティ関連企業は無数にあるのだが、パロ・アルト・ネットワークス、クラウドストライク・ホールディングスなどが代表的な銘柄だ。

 また、ビッグデータ関連もAIとの関連性が高い。ここ数カ月でトランプ銘柄として注目されるようになったパランティア・テクノロジーズは、米国防総省や米軍などにAIによるビッグデータ分析を使った意思決定システムを提供している。民間企業への導入シェアはまだ小さいが、認証基準が厳しい政府の軍事組織に採用されているために急速に評価が高まっており、事業拡大の伸びしろが大きい。

◆社会が明るいムードに一変、高まるトランプ政策への期待

 そして25年相場の最大の焦点は、やはりトランプ次期大統領の政権運営となるだろう。高関税政策によってインフレが進むと言われているが、半面、同氏が進めようとする規制緩和をはじめとした政策には大いに期待が持てる。まず、民主党政権から明らかに変わるのは、政府効率化省のトップに任命されたイーロン・マスク氏のもとで進められる、徹底的な無駄の削減だ。

 これまで民主党が進めていたリベラルな政策は、聞こえはいいが実は様々な既得権益を生んでいた。例えば太陽光や風力などの再生エネルギーは、実は資本効率が悪くて人々の役に立っているかも分からないのに、地球環境保護という理念を盾に推し進められてきた。ここに役人やコンサルタント、弁護士、さらにアクティビスト(物言う株主)などの高所得者層がぶら下がるという図式が出来上がっていたわけだ。

 市場原理を尊重するトランプ氏とマスク氏なら、こうした半ば特権と化した不自然なシステムに容赦なくメスを入れていくだろう。当然、この分野に従事していた人たちはリストラの対象になる。さらに生成AIに置き換わる雇用も徐々に減少していく。加えてトランプ氏が公言している通り、ウクライナで停戦が実現すれば、原油価格もただちに下落するだろう。つまり、トランプ政策には、潜在的なデフレ要素もかなり内包されているのだ。

 ここにトランプ政策の目玉でもある規制緩和や国内産業育成策で、新たな雇用機会を生み出していく。これまで規制に縛られていた火力発電所などは、必要ならどんどん増設していくだろう。すると、いまのハイテク産業の最大の課題である、データセンター向けの電力不足も解消に向かうかもしれない。理念先行ではなく、現実的な政策を進めることによって、こうした経済の好循環が実現する可能性があるのだ。

 何と言っても、トランプ次期政権にとっての最大の政治公約は、国民の過半を占める低中所得層の生活を向上させることだ。いま公言している政策を着実に実行していけば、ひょっとしたらインフレを抑制しつつ、雇用を守り景気を拡大させることができるのではないか。そんな期待がアメリカ社会にはあると思われる。実際、12月初めのブラックフライデー商戦は、当初予想されていたよりかなり好調だったという。トランプ大統領の誕生によって社会のムードが変わり、これまで固かった一般消費者の財布のひもが緩んだのだ。

 トランプ氏が大統領に就任する1月20日以降は、世界の政治も大きく変わっていくだろう。左派と右派の対立やロシアの脅威に揺れるヨーロッパ各国も、おそらくトランプ氏の流儀になびいていくのではないか。実際にトランプ氏が大統領に就任した後、彼が何を言うのか何をやるのかを注視する必要があるが、トランプ氏の過去の経緯に縛られないスタイルには様々な分野で可能性を感じる。特に、トランプ氏の基本姿勢であるアメリカ第一主義、つまり「税金は自国の国民のために使う」ということは、至極もっともなことなので、多くの国で人々の共感を集めることになるのではないだろうか。

 トランプ氏の強権的とも言えるリーダーシップによってアメリカ経済はさらなる成長を目指すのではないか。もちろん、インフレリスクもあるし、様々な混乱もあるだろうから、今から全てそうなると決めつけることはできないし、今後のトランプ氏を注視する必要はある。ただし、トランプ政権は言ってみれば、これまで誰も取り組んでこなかった、資本主義社会の中での「壮大な実験」でもある。これはとりあえずアメリカの株式市場にとって追い風と見てよいだろう。

 社会の明るい空気を映して、ハイテク産業以外にもアマゾンやウォルマート、ショッピファイなどの小売り関連や、スポティファイ・テクノロジーなどのエンターテインメント産業が好調だ。こうした状況を考えれば、24年と同じ形ではないかもしれないが、やはり25年の米国株も、「買い」だと言っていいだろう。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。



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