安田秀樹【「コンコード」の歴史的大失敗と「Switch」後継機の互換性公表がゲーム業界に与える影響】

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コラム

●上半期は減収となる企業が続出したゲーム業界

 ゲーム業界の2025年3月期上半期決算が出そろった。筆者がカバーしている企業の中で増収増益となったのはバンダイナムコホールディングス <7832> 、ソニーグループ <6758>だけで、スクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> は減収増益、任天堂 <7974> 、コーエーテクモホールディングス <3635> 、カプコン <9697> は減収減益となった。

 この背景には2つの大きな要因がある。一つはソニーの「プレイステーション5(PS5)」が期待された成果を出せていないこと。もう一つは任天堂の「スイッチ(Switch)」がハードとしてサイクルの終盤に入っており、販売の勢いが落ちていることだ。

 パソコンゲーム市場が伸びているのは確かであるが、新作ゲームの主戦場はゲーム専用機であり、ハード販売の低調がそのままゲームソフト販売を手掛ける各メーカーの業績に直結している。今回はソニーと任天堂の決算に触れていこうと思う。

 まず、ソニーグループの25年3月期第2四半期(7-9月期)決算は増収大幅増益だったので、投資家の目線では申し分ない結果である。しかも主要事業であるゲーム&ネットワークサービスの利益は実に前年同期比2.84倍にもなっている。大幅増益の要因は3点あり、ゲームハードの収益性の改善、サードパーティー(外部業者)・タイトルの貢献、ネットワークサービスの拡大によるものだ。

 ゲームハードの収益性については、前年度は2500万台という過大な目標に向かって大量生産されており、製造した時点で損失を認識しないといけないことが響いた。現行品の「PS5」ではこの問題が改善されているうえに、生産台数が大幅に減少した結果、利益が増えたのである。

 サードパーティー・タイトルは「黒神話:悟空」のことを指している。このタイトルは中華圏で人気になっているのだが、中華圏のマーケットは日本からの並行輸入品が多く、マーケティング・データもないため、「PS5」版の販売状況がどうだったのかは正直分からなかったのだが、決算を見る限り、相当好調だったようだ。

 ネットワークサービスの拡大は、「プレイステーションネットワーク(PSN)」の値上げ効果である。会員数は非開示となったことから恐らく減少していると思うのだが、大幅な値上げをしたことで増収となり、業績にはプラスに働いているのである。

●「PS5」は苦戦が続き、前年同期比で大幅な減少

 決算内容をよく見た方はお気づきだと思うが、「PS5」の販売(着荷)台数は前年同期比で減少している。第2四半期だけでも前年の490万台から380万台と大きく減少した。ソニーグループは、「PS4」までは値下げで販売を伸ばせたが、それが出来なくなったからだと説明している。

 しかし、それならなぜ、大幅に価格水準を引き上げた「PS5Pro」を発売したのだろうか。「PS5」は「PS4」の販売台数を楽々上回るような素晴らしい性能のゲーム機だったはずである。だが現状は、逆に「PS4」との乖離が大きくなっている。このままでは来期の販売は厳しそうだと思うのだが、筆者は同社から「批判ばかりしている」と思われているらしいので、聞く耳を持たないだろう。

 コーエーテクモ、カプコンなど日本のサードパーティー各社の業績が減益傾向となっているのは、「PS5」の大成功を想定していたからだと考えている。しかし現実は「PS4」の販売台数を下回っており、それでありながら開発費は増える一方で、各社の損失が大きくなっているのだ。

 筆者はゲームソフトではハードウェア販売の勢いを改善できないと常日頃から主張してきた。「PS5」の現状はこの指摘をよく表しているのではないかと思う。ただ、「黒神話:悟空」の大ヒットは、中華圏ローカルとは言え、驚きだ。この作品は、例えストレージの容量を消費したとしても、このゲームで遊びたいという強い意志をユーザーに与えたのではないかと見ている。

●歴史的大失敗、「コンコード」がソニーの事業に与える意義とは

 次の第3四半期のゲーム事業は減収減益を想定しているとのことだが、これはソニーグループも認めているように、「コンコード(CONCORD)」の歴史的大失敗によるものである。次の四半期は予定していた「コンコード」の収益がすべて無くなったということなのだ(ただし、開発費は計上済みのはずである)。「コンコード」はパソコン向けゲーム配信プラットフォーム「Steam」での同時接続数が歴代のゲームでも最低レベルに終わり、わずか10日ほどでサービス休止となった。また、同作品を開発したソニーグループ傘下のスタジオも閉鎖が発表され、ゲーム開発責任者でもあるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のハーマン・ハルストCEO(最高経営責任者)は失敗を認めざるを得ない状況に追い込まれた。

 ソニーグループは失敗をまず認めない組織だが、ここまでの歴史的大失敗となると認めざるを得なかったのであろう。正直、筆者としては失敗を認めたことを大変評価している。失敗を認めないと方向を変えられないからだ。実際、今後はソロプレイゲームとライブサービスゲームのバランスを考えると説明会では発表があった。

 運営型のゲームは非常に成功の椅子が少ないということは、日本でのスマートフォンゲームやマッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム(MMORPG=大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)の歴史が教えてくれている。先行して成功したゲームは、その膨大な収益を背景にコンテンツを追加するため、後発になるほど多額の開発費が掛かるが、費用を掛けた割には作品の質が見劣りすると評価されがちで、なかなかヒットしないのである。

 誕生してから半世紀も続いているソロプレイゲームの買い切りモデルのほうが生き残る可能性が高いことを筆者はこれまでも指摘してきたのだが、投資家は革新性のあるビジネスモデルを好む傾向があり、新しいものを過大に評価してしまっているのではないかと見ている。来年以降はソロプレイの大作ゲームがソニーグループから発売されるようなので、楽しみにしたい。ゲーム事業については、「Steam」でも発売するようになったこともあり、「PS5」の不振は年間を通した業績には影響がそれほど大きくないと考えている。

●本当に必要なのか? 評価される"神機能"、互換性について考える

 任天堂の25年3月期上期(4-9月期)は大幅減収減益だった。「Switch」ハードは前年同期比31%減の472万台、ソフトも同27.6%減と落ち込んだ。前年同期に「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の大ヒットがあった反動もある。「Switch」はさすがに8年目で限界が見えてきた感がある。

 経験則的には決算の翌日は下がることが多かった同社株だが、今回は決算発表までに先行して下落傾向だったものの、決算翌日には大きく反発した。理由は悪材料出尽くしなどいろいろ考えられるが、最大の要因は「Switch」の後継機は「Switch」との互換性が確保され、これまでのゲームソフトを動作することができると発表されたことだろう。ただ実は、筆者は互換性を持たせること自体はそれほど評価していない。

 理由を挙げると、一つには貴重なストレージを前世代機のゲームが占有してしまう、ということがある。もう一つは、互換性自体はゲーム機販売の成否に対して影響が全くないということだ。

 ストレージを前世代のゲームに消費されると、当該プラットフォームのゲームソフト販売が減少することを意味しており、ネガティブである。すでに売れてしまったゲームは新たな収益を生まないからだ。また、前世代機との互換性の有無と販売状況の関係は非常に重要なことで、これまでのゲームの歴史を振り返ってみても、互換性とゲーム機ハードの普及に相関関係はないのである。

 「PS2」や「ゲームボーイアドバンス」は成功した前世代機との互換性を持たせて大ヒットした一方、「Wii」との互換性を持たせた「Wii U」は大失敗だった。「PS3」も失敗に終わった。さらに「PS4」と「Switch」のように、前世代機の失敗により互換性を外したケースもある。筆者は経営とは、因果性のあるものにヒト、モノ、カネを投じることと定義している。極論かもしれないが、互換性は資本の無駄遣いだとさえ考えている。

●単なる投資家対策ではなさそうな任天堂の互換性発表

 ところが互換性が確保されることに対する消費者や投資家の評価は上々である。一般的に、互換性はメリットしかないと思われているためであろう。任天堂に対する取材でも互換性の発表は投資家対策として行ったという示唆があった。株価は業績で決まると思っている方が多いと思うが、少し分解すると利益(EPS)×人気(PER)となる。8年目を迎えた「Switch」は、任天堂に対する利益貢献という点では限界だと感じるが、ユーザーの人気はそうではない。一般的な企業では業績が悪化すると人気も落ちてしまうものだが、任天堂は話題を提供することによって人気を維持している。

 「Wii U」は「Wii」が衰退期に入り、一度公開したあと一年後に再度、ゲームパッドを改良して発表するなどしたが、ユーザーの関心を維持できなかった。だが今回は一定間隔で情報や話題を提供しており、人気を高めることで企業価値は維持できていると言っていいだろう。ここ数カ月でも「ニンテンドーミュージアムダイレクト」、「ニンテンドーダイレクト」などの映像コンテンツの配信、「ニンテンドーミュージアム」の開館、目覚まし時計「ニンテンドーサウンドクロック アラーモ」の発売、音楽配信アプリ「ニンテンドーミュージック」の開始と立て続けに話題を提供している。

 任天堂と対話して感じたのは、今回の互換性の発表にも話題が仕込まれているようであることだ。単純に互換性を持たせるようなことはしない企業だと筆者は任天堂のことを捉えているので、何かしらあるであろう。「後日(2、3日ではないとしていた)」とされる発表に向けて、まだまだ話題を提供してくれそうである。

 そうなると、今上半期は厳しかったコーエーテクモなどのゲームソフト大手のみならず、「Switch」向けに手堅く作品を供給しているマーベラス <7844> や、ゲームソフト受託開発企業のトーセ <4728> 、ユークス <4334> なども来年に向け、「Switch」後継機の話題が増えるに連れて、改めて注目されるチャンスが訪れそうだ。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。24年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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