生き残りかけ新業態相次ぐ、食品スーパーのゲームチェンジャーを追う <株探トップ特集>

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コラム

―消費者の買い控えに危機感、健康・自然志向や生鮮専門、ディスカウントなどで差別化図る―

 食品スーパーが苦境に陥っている。同業他社や、 ドラッグストアとの競合が激化。一方で物価高に賃上げは追いついておらず、消費者の節約志向は高まっており、生活必需品の買い控えも起きている。また、水道光熱費や人件費などのコストは高止まりしており、経営環境は厳しさを増している。

 そうしたなか、ここ数年、既存店舗とはブランドや仕組みが異なる新業態に取り組む食品スーパーが増えている。既存の店舗に比べて売上高や粗利益が高い店舗も多く、業績への貢献も期待できる。新業態に取り組む企業を中心に、食品スーパー関連銘柄に注目したい。

●業績悪化企業が約7割

 全国スーパーマーケット協会の「統計・データでみるスーパーマーケット」によると、2024年10月末時点の食品スーパーの店舗数は2万1199店舗に上り、年平均1%強のペースで増加している。一方、商業動態統計によると、23年のスーパー販売額は15兆6492億円(前年比3.3%増)となっており、2年連続で増加している。

 一見すると堅調に見えるが、帝国データバンクが23年10月に発表した調査によると、22年度の損益が赤字、あるいは前年度から減益となる「業績悪化」の割合は、食品スーパー全体の約7割に達した。仕入れ価格に対する価格転嫁は進むものの、水道光熱費や人件費などのコスト増加分を価格転嫁するのは難しい。また、ディスカウントストアやドラッグストアなど他業態の進出や、大手量販店を中心とした割安なPB(プライベートブランド)商品の集客力に対抗するために値下げ戦略を取らざるを得ないという事情もあり、利益の確保が難しくなっている。

●企業再編や合従連衡が進む

 こうしたなか、業界で進むのが企業再編だ。食品スーパー業界は、バブル期の過剰投資の反動などで21世紀に入り経営破綻が相次いだが、10年代に入り、超低金利政策下で倒産する企業は減少した。

 一方で合従連衡や大手スーパーによる買収は増えており、最近でも23年4月にエイチ・ツー・オー リテイリング <8242> [東証P]グループのイズミヤと阪急オアシスが合併、同年9月にはセブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]傘下のイトーヨーカ堂とヨークが合併した。また、同年11月にはイオン <8267> [東証P]がいなげや <8182> [東証P]を連結子会社化。いなげやは、今年11月30日付でイオングループ傘下のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス <3222> [東証S]の完全子会社(11月28日付で上場廃止)となる予定だ。

●「BIO-RAL」の展開に力を入れるライフコーポ

 再編の動きとは別に、スーパー各社が力を入れているのが、 PBの強化や新業態の展開だ。

 ライフコーポレーション <8194> [東証P]は、16年6月にナチュラルスーパーマーケット「ビオラル」を出店。また、出店と並行する形で20年12月に新PB「BIO-RAL」の展開を開始した。同ブランドは「オーガニック」「ローカル」「ヘルシー」「サスティナビリティ」の4つをコンセプトとしており、コンセプトに沿って健康や自然志向のオリジナル商品を開発している。更に、既存PBの「ライフナチュラル」の商品を「BIO-RAL」に刷新して、8月末時点でアイテム数は382点を数えるまでになった。

 同社ではビオラル事業の30年度の目標を売上高400億円(23年度約100億円)、単独店数50店舗(24年8月末9店舗)、PB商品アイテム数1000アイテムとしており、今後も事業の拡大を目指す。これにより同社は、同質化競争からの脱却を図るとしており、生き残りレースから一歩抜きん出た格好だ。

●新業態が注目される食品スーパー関連銘柄

 ライフコーポ以外にも、新業態に注力する企業は多く、これらにも注目したい。

 USMH傘下のカスミは、21年3月に始動した全社プロジェクト「新業態開発プロジェクト」のもと新業態「ブランデ」を開発。22年1月に「ブランデ つくば並木店」をオープンさせたのを皮切りに現在までに4店舗を展開している。買い物を通して新たな食の体験を提供することにこだわった店舗で、今年9月には初の都内店となる「錦糸町店」を出店するなど着実に店舗数を増やしている。

 ベルク <9974> [東証P]は23年7月に新業態「クルベ」1号店の「江木店」を群馬県高崎市に開店させた。「ベルク」自体も低価格のイメージの強いスーパーだが、「クルベ」は「ベルクの限界にチャレンジする店」として位置づけられたディスカウント業態で、「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」をポリシーに他社との差別化を狙う。また、今年2月には2号店の「竜舞店」をオープンさせた。

 平和堂 <8276> [東証P]は23年9月に小商圏対応の新業態「フレンドマートスマート」の1号店を大阪府茨木市にオープンした。売り場面積150坪を基準としたローコストオペレーションの実現により、広い土地の確保が難しい都市部や人口の少ない郊外でも出店可能な業態で、他の店舗では毎週行っているチラシの新聞折り込みやカード会員価格の品やモバイルクーポンなどの期間限定の割引セールなどを実施しないことで価格を抑えている。今年8月には滋賀県東近江市に「能登川佐野店」を出店しており、今後も小商圏への展開を図るもようだ。

 オークワ <8217> [東証P]は今年9月、総菜専門の新業態「アンドデリカ 谷町店」(大阪市中央区)をオープンした。総菜のほか、手作りおにぎりや弁当、焼きたてパン、スイーツなど約130アイテムを取り扱う。官公庁やオフィスが立ち並ぶ都市部に立地し、売り場面積は82平方メートルと一般的なコンビニエンスストアよりも小型の店舗で、売り場面積の確保が難しい、都市部への新たな出店手段として、今後も店舗数を増やすもようだ。

 ヤオコー <8279> [東証P]は、17年4月に神奈川県を地盤とする同業のエイヴイを買収し、そのノウハウを取り入れたディスカウント業態の「フーコット」を21年8月から展開している。POPなどの装飾や設備、陳列などを簡素化することで運営コストをカットし価格に反映させたのが特徴で、埼玉県を中心に現在5店舗を運営。エイヴイの「ave」と合わせて、ディスカウント業態でのシェア拡大を目指している。

 マミーマート <9823> [東証S]は19年2月に「行くのが楽しくなる食の専門店」をコンセプトとした、生鮮食品専門のディスカウント新業態「生鮮市場TOP!」1号店を埼玉県坂戸市に出店。今年11月には28店舗目となる「スーパービバホームちはら台店」を出店した。また、「生鮮市場TOP!」をベースによりディスカウント色を強めた新業態「マミープラス」の展開も22年5月に開始し、これら2つの新フォーマットへの業態転換を進めることで、業績拡大を狙う。

 このほか、大型GMS(総合スーパー)を主力に食品スーパーなども展開するイズミ <8273> [東証P]では、新業態として都市型の小型総合スーパー「ゆめテラス」の展開を始め、1号店である「ゆめテラス祇園」を23年6月にオープン(全面オープンは11月)した。都市型の小型GMSとの位置づけから注目されている。

株探ニュース

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