工作機械株の仕込み場到来へ、世界経済の先行指標が示す波動に刮目 <株探トップ特集>
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―受注は25年以降に次なるピークの公算、PBR1倍割れ・高配当利回り銘柄も山積― 9月の東京株式市場は、鉄火場と化した8月相場の影響を強く受けたようだ。8月の日経平均株価は7月の高値から25%以上も下落し、その後は下落幅の7割も戻すという、近年稀に見る高いボラティリティ(変動率)を示した。このように激しく値が動くと、投資意欲が減退して市場参加者は少なくなる。また参加するにしても、全力投球というわけにはいかず、いつでも逃げられる半身の姿勢であることから、些細な材料でも乱高下する。9月も今のところは8月ほどではないが、引き続き荒っぽい地合いを続けている。 ●「G20」のファンダメンタルズは頑強 9月上旬に日本株が再び下げ始めた大きな要因の一つに、円高・ドル安の進行がある。ドル円相場は8月のボトムである1ドル=141円70銭を超えて円高が進み、140円を割り込む局面があった。米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派姿勢とは対照的に、日銀は基本的に金融政策の正常化に向かいつつある段階だ。日米で異なる金融政策の方向性が変わらない限り、円高・ドル安の懸念が続くこととなる。円高・ドル安は輸出企業の業績悪化を懸念させ、日本株の売り材料となっている。 ただし、過去を振り返ってみても円安の好影響が企業業績に反映されるようになるのにはタイムラグがある。円高の悪影響についても、すぐに業績に表れるとは考えにくい。円高による負の影響を、堅調な海外景気を背景とした販売数量の増加が補うシナリオも存在する。 経済協力開発機構(OECD)の景気先行指標であるコンポジット・リーディング・インディケーター(CLI、長期平均=100)によると、日本と米国は8月、好不況の境目となる100をわずかに下回った。FRBのハト派姿勢や、正常化と言いつつ日銀の政策誘導目標の金利水準が未だ緩和的なのは、こうした景気の見通しが反映されていると言えるだろう。半面、CLIにおいて世界経済の動向を示すG20のデータは、2022年秋を底に緩やかな回復基調となっており、24年1月から100超えを続けている。 ●中国の工作機械輸入は高水準で推移か もう一つ、景気に先行する指標として工作機械受注がある。日本の 工作機械の受注額は、全体の3分の2が海外からであるため、その動向は世界経済の先行指標とみることができる。日本工作機械工業会(日工会)によると、日本の8月の受注額は前年同月比マイナス3.5%と4カ月ぶりに前年割れとなった。しかし、すう勢としては20年のコロナショックの落ち込みからの回復と再調整を経て、23年5月の同マイナス22.1%を底に緩やかな回復傾向を続けている。 工作機械の生産世界シェアは23年で中国がトップであり、全体の約3割を占めている。二番手を争っている日本とドイツの生産シェアは1割程度だ。消費世界シェアは中国がトップであり、全体の約3割を占めていることを考えると、工作機械の動向を占う意味で中国は見逃せない存在だ。前述のCLIにおいて中国はわずかに100を上回る水準である。もちろん、不動産不況の問題などから手放しで喜べる状況ではなく、米国による中国への輸出規制は同盟国にも及んでおり、兵器や半導体など戦略的物資に加え、工作機械もターゲットとなっている。それだけに、中国は輸入品について自給率を高めるための設備増強を急いでおり、その一環で工作機械は高水準の輸入を今後も続けるものと考えられる。加えて、中国では追加金融緩和と景気刺激策が発表されており、その効果が注視される。 更に、日本と二番手を争うドイツの工作機械製造業者協会(VDW)によると、24年4~6月期の受注額は前年同期比マイナス28%。24年は全体として大幅に減少するとの予想である。ドイツの工作機械メーカーの得意先は中国だ。VDWは年初に24年の世界経済が大きな弾みをつける可能性は低い、と悲観的に見ていたため、ここに大きな失望はない。ところが最近のVDWは、今年後半になると工作機械の受注が大きく安定すると楽観視するようになった。 VDWが受注の先行きを楽観視する一因として考えられるのは、今年後半に回復が見込まれている半導体製造向けの需要だ。日本の工作機械業界でも、半導体製造向けのほか、自動車向けや航空機向けなどの需要が盛り上がり、25年から26年にかけて次の受注のピークが来る、と考えられているようだ。 日本の工作機械受注は、東証株価指数(TOPIX)の12カ月先予想1株当たり利益(EPS)と中期的な連動性も高い。工作機械受注の増加が見込まれるということは予想EPSの増加も期待できるということであり、今は乱高下が激しい日本株の今後を楽観視する材料と考えられる。 そのうえで工作機械株に目を向けると、中国の景気減速懸念と円高警戒を重荷に出遅れ感を強めた銘柄が散見される。CNC(コンピューター数値制御)装置で世界シェアトップクラスのファナック <6954> [東証P]の株価は年初来で0.4%安、産業用ロボットの安川電機 <6506> [東証P]は18.8%安と、TOPIXの12.0%高に対し、パフォーマンスで劣後した状況だ。この先の受注環境を踏まえると、悲観に傾いた市場の見方が修正された際には、株価の戻りに拍車が掛かることが十分見込めると言えるだろう。中期的な観点でみても、今の株価水準は「仕込み場」と捉えられそうな銘柄はいくつか存在する。 ●オークマ・牧野フ・シチズンはPBR1倍割れ DMG森精機 <6141> [東証P]は、XYZの直線3軸に2軸の回転傾斜軸を加えた5軸加工機や複合加工機の販売を伸ばしている。24年12月期第2四半期累計(1~6月)の最終損益は9億3300万円の赤字(前年同期は149億900万円の黒字)で着地。ロシア政府により現地法人の株式が収用されたことに伴う関連損失の計上が尾を引いている。ただしDMG森精機は海外直接投資保険に加入しているとあって、今後求償金額が確定し、通期の最終損益の黒字額予想(前期比6.1%増の360億円)に変更がないとの見方が広がった場合は、安心感が広がりそうだ。同社は成長が見込めるインド市場での生産拡大も図っている。 工具の自動交換機能で加工時間を短縮できるマシニングセンター(MC)で存在感を持つオークマ <6103> [東証P]は、今期は最終減益の見通しで株価は年初来で0.5%安。8月22日に1対2の株式分割を発表している。牧野フライス製作所 <6135> [東証P]も今期は最終減益の見込みで、株価は前年末終値近辺で推移。両社ともPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回っている。 シチズン時計 <7762> [東証P]の25年3月期第1四半期(4~6月)決算は2ケタの営業減益となり、売上高営業利益率は悪化した。時計事業ではインバウンド需要回復の恩恵を受けながらも中国の市況悪化でアジア向け販売が低迷。工作機械事業も低調に推移している。しかしながら子会社のシチズンマシナリーでは大型機の需要拡大を背景に北上事業所の生産能力の増強に動くなど成長に向け舵を切る。PBRは1倍割れ。配当利回りは4.8%台と高水準だ。 ●THKとユニオンツルは最終増益を計画 工作機械などに搭載され、物体を直線に動かす直動案内機器「リニアガイド」で高シェアを誇るTHK <6481> [東証P]の24年12月期第2四半期累計(1~6月)の最終利益は4割減益ながら計画を上振れして着地。円安効果に加え、産業機器事業の需要回復が寄与した。生成AI市場の拡大で画像処理半導体(GPU)ボードやマザーボードなどの高多層基板向け高性能ドリルの需要が増加しているユニオンツール <6278> [東証P]にとって、工作機械需要の回復は切削工具の販売を下支えする。通期ではTHKは3期ぶり、ユニオンツルは2期ぶりの最終増益を計画する。 射出成形機を主力とする芝浦機械 <6104> [東証P]はインドにおいて第2工場を開設した。成長市場で事業拡大を図る同社の株価は足もとでは年初来高値圏で推移している。CNC精密自動旋盤のツガミ <6101> [東証P]の25年3月期第1四半期(4~6月)の最終利益は前年同期比2.1倍の27億500万円。大幅増益となったほか、通期計画に対する進捗率は41%台と好スタートとなった。 放電加工機のソディック <6143> [東証P]は8月、円安効果を反映する形で24年12月期の最終利益予想を引き上げた。中国での工場集約など構造改革効果が表れつつある同社のPBRは0.5倍近辺で、配当利回りは3.6%台に上る。ツバキ・ナカシマ <6464> [東証P]は、今期は3期ぶりの最終黒字を計画。主力製品の精密セラミックボールは工作機械スピンドルなどに使われている。PBRは0.4倍台。配当利回りは5.0%近辺と高水準だ。 電子部品大手のニデック <6594> [東証P]が旋盤メーカーのTAKISAWAを買収したことも工作機械業界では話題となった。ニデックはこれまで工作機械メーカーを含め、M&Aを積極的に進めており、今後の展開が注目される。このほか工作機械株としては、スター精密 <7718> [東証P]や黒田精工 <7726> [東証S]、岡本工作機械製作所 <6125> [東証S]のほか、DMG森精機グループで親子上場というテーマを持つ太陽工機 <6164> [東証S]、加工品を固定するコレットチャックで高シェアのエーワン精密 <6156> [東証S]などがある。 株探ニュース