安田秀樹【大盛況! 東京ゲームショウに映る日本アニメ黄金時代】
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●「AIのリターンが金利を上回る」、改めて世界的な金利上昇を解説する 今月はまず、金利の上昇について整理したい。多くの読者もすでにご存じのとおり、主要国の長期金利は上昇基調にある。日本の10年物国債利回りは0%台が長らく続いていたが、2022年末ごろから上昇基調へ転じ、26年9月末には3.1%を突破した。年間のペースでは、およそ100ベーシスポイント(1ベーシス=0.01%)切り上がっている感覚である。鉄道会社を企業訪問で取材した際に、若手社員から「金利が存在する世界を初めて見た」という声も聞かれた。日本の低金利環境がいかに長期化していたかを物語っている。 欧州でも長期金利が急上昇しており、財政悪化懸念が強まっている。また、米国では10年物国債の利回りが一時、5.3%を超えた。債券は表面利率(クーポン)が途中で変わるわけではないため、市場での取引価格の変動によって利回りは調整される。つまり利回りが急ピッチで上昇している事象は、国債の取引価格が急落していることを意味する。 世界で同時に金利が上昇する要因は、需給とマクロ理論の双方を見るのが妥当だろう。有力な仮説は二つある。一つは「財政赤字の拡大に伴う、政府の財政信任の低下」、もう一つは「ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)による巨額の資金調達」である。前者の「多くの先進国が財政赤字と巨額債務を抱えている」という点は、周知の事実だが、21世紀に入ってから負債の膨張は常態化しており、これを足元の急上昇の理由とするにはやや違和感が残る。 そう考えると、後者である「ハイパースケーラーによる巨額の資金調達」説が有力だろう。直近でもソフトバンクグループ <9984> による大規模な社債(国内個人向け7年債・利回り4.75%、ドル建て7.5年債・利回り9.75%)発行で見られたように、AI(人工知能)データセンターの整備や電力インフラ確保のための資金需要が急激に膨らんでいる。一夜にして債券市場全体のマネーが増えるわけではない以上、需給の悪化が利回りの急騰を招いたと考えるのが自然だ。現時点で主要株価指数への影響は限定的なのは、「AIがもたらす期待リターンが金利上昇分を上回る」と市場が見立てているためであろう。 もちろん、あまりに金利上昇が続くと、好調なAI関連の半導体・電子部品セクターの重荷になり得る点には注意したい。ただ、9月29日に発表された積層セラミックコンデンサー(MLCC)やインダクタなどの分野におけるTDK <6762> と太陽誘電 <6976> の提携に象徴されるように、AI関連への相次ぐ巨額投資がもたらす波及効果は極めて大きい。目下、関連各社はAIデータセンターの旺盛な需要への対応に追われている。村田製作所 <6981> をはじめとする電子部品業界や、ミネベアミツミ <6479> 、イビデン <4062> などの半導体デバイス周辺メーカー、東京エレクトロン <8035> やアドバンテスト <6857> といった半導体製造装置メーカーに至るまで、その恩恵は広範に及んでいる。 ●東京ゲームショウから映画まで、大盛況のアニメIP市場 次はゲーム分野について触れたい。9月17日から20日にかけて「東京ゲームショウ2026」が開催された。台風の影響で惜しくも21日は中止となったが、直前にネット配信されたゲーム情報番組「State of Play(ステートオブプレイ)」や「Nintendo Direct(ニンテンドーダイレクト)」を含め、市場の熱気は大いに高まった。ここ数年、現地視察で受けた筆者の印象は一貫しており、「日本市場はアニメ調、そしてゲームもアニメ系IP(知的財産)の融合が完全に主流化した」というものである。 「ニンテンドーダイレクト」を振り返っても、セガサミーホールディングス <6460> の『ペルソナ6』、任天堂 <7974> の『星のカービィ ワールドビヨンド』、コーエーテクモホールディングス <3635> の『薬屋のひとりごと ~偽りの皇弟~』、イマジニア <4644> の『Fit Boxing 刀剣乱舞 -出陣!えくささいず本丸-』など、アニメ系有力IPを活用したタイトルが目白押しであった。 アニメIPを活用したビジネス展開では、バンダイナムコホールディングス <7832> やハピネット <7552> もカードゲームや一番くじ、ガシャポン事業で利益を伸ばしている。加えて、カプコン <9697> やコーエーテクモ、スクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> といったゲーム各社がダウンロード版のセールを巧みに展開している点も見逃せない。 半導体市況の影響を織り込む任天堂やソニーグループ <6758> を除けば、中堅を含むゲーム株全般の底堅さは際立っている。意外な伏兵は岐阜に本拠を置く日本一ソフトウェア <3851> だ。従来はコンセプトの定まりにくさが散見されたが、25年1月に猿橋健蔵社長が就任して以降は開発方針が明快になり、新作『ほの暮しの庭』は同社としては異例の25万本超のヒットを記録した。この後、海外版も登場するので業績拡大が楽しみである。 映画市場を見ても、東宝 <9602> の『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が興行収入170億円を突破した。ジブリ作品を除けばアニメ映画のメガヒットが限られていた2000年代を知る身からすれば、まさに隔世の感がある。アニプレックス(ソニーグループ)の『鬼滅の刃』シリーズをはじめヒット作が量産され、9月18日に公開された東映 <9605> の『映画名探偵プリキュア! 不思議な庭と2人の秘密』もすでに興行収入10億円を突破し、20億円台への着地を視野に入れている。アニメ映画の隆盛というこの潮流は、ゲーム産業にも着実に波及している。筆者の見立てどおり、2030年代に向けて日本発のアニメ文化は世界へ一段と浸透していくだろう。 ●プレイステーションの存在感が日本で薄れた理由 今回の東京ゲームショウに関連して、もう一つ触れておきたい論点がある。ソニーグループが配信した今回の「ステートオブプレイ」は、珍しく日本時間の午後10時開始に設定された。今回の時間設定は素直に評価できる。グループのゲーム事業統括会社であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が本社を米国へ移して以降、公式配信の多くは日本時間では早朝(午前6時以前)に集中し、「日本市場に対する熱意が薄れたのではないか」と国内のゲームユーザーの間で懸念が根強かった。しかし株式投資家から見れば、日本発祥のブランドでありながら、国内ファンの支持が揺らいでいる構図は奇異に映るはずだ。ユーザーの同社への懸念については、これ以外にも多数の指摘があるのだが、本稿では紙幅の都合上、割愛する。 この「熱意の低下」という肌感覚は明確に、ハードの実売データとして市場に表れている。「ファミ通」の推計によると、日本国内の累計販売台数は「プレイステーション(PS)2」が約2200万台、「PS3」が約1000万台、「PS4」が約950万台、そして現行の「PS5」は現在約770万台にとどまり、世代を追うごとに縮小してきた。「PS5」は内外価格差を背景に、相当数が海外へ転売・流出した(「Switch」も同様ではある)と見られ、国内の稼働実態はさらに少ない可能性がある。 さらに決定的だったのは、任天堂が日本市場を重視する施策を進めたことで起こった格差だ。ソニーグループが国内投資を絞ったと受け取られる一方で、任天堂は日本市場を粘り強く耕し続けた。結果、「Switch」の国内約3700万台に対し「PS4」は約950万台と、実に2800万台もの大差がついた。世界累計(出荷ベース)でも「Switch」の1億5500万台に対し「PS4」は1億1500万台であり、両者のシェア格差の大部分は日本市場での勝敗に起因していると言ってよい。現行の「PS5」がさらに販売を落とす中、このままでは後発の「Switch2」に発売からわずか2年程度で国内累計を抜き去られる可能性がある。 ソニーグループ自体の業績は堅調であり、財務面の不安はない。だが世界最大のテクノロジー見本市、米CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)への出展見送りを含め、ゲーム事業発の話題づくりには物足りなさが残る。自社ハードの国内販売鈍化を理由に市場の将来性を過小評価した結果、ライバルに決定的な差をつけられた側面は否めない。SIEの西野秀明CEO(最高経営責任者)には「日本市場を重視する」という口頭のメッセージだけでなく、10月13日に発表された「PS5」の日本国内向けモデル「PS5 デジタル・エディション ミッドナイトブラック 日本語専用」のように、次世代機でも具体的な実行力を見せて欲しいところだ。投資市場においてユーザー心理の変容を読み解くことは極めて重要だが、一度根付いたネガティブな印象を払拭するのは容易ではない。 テクノロジーの進歩により、「Switch2」ではAAAと呼ばれるハイエンドソフトもリリースされるようになり、ユーザーがあえて「プレイステーション」を選ぶ理由が見当たらなくなっている。日本は、単一のゲームハードが3000万台規模に達する世界有数のゲーム大国である。ソニーグループには、この巨大な日本市場の重要性を再認識し、積極攻勢へと打って出ることを期待したい。 【著者】 安田秀樹〈やすだ・ひでき〉 東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、2026年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとのとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。 株探ニュース