川上から川下へと移るAI投資の潮流と、いま仕込むべき7つの銘柄<小川浩一郎・米国株"上昇のナラティブ">
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◆「コアウィーブ・ショック」の正体は? 今回はまず、先週来、株式市場を動揺させている「コアウィーブ・ショック」について触れたい。発端はコアウィーブの共同創業者、ブランニン・マクビー氏が米メディアに保険会社を通した無制限の資金調達について言及したことにある。金利に先高観が強まる中で、同社をはじめとしたネオクラウド事業者には、ただでさえ社債で調達した資金に見合うだけの収益を上げられるのかという懸念が高まっていた。そんな中で出されたマクビー氏の発言を、市場は「社債だけでは資金が足りないのか」と受け取り、信用不安が一気に拡散。社債価格が下落し金利は一時、15%超にまで上昇するとともに、同社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドも1194.5ベーシス・ポイントまで上昇した。この数値は、債券市場の参加者が、5年以内に同社がデフォルト(債務不履行)する確率が60%超に上ると見積もったことになる。 同社の大株主であるエヌビディア のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)が擁護するコメントを出したが、依然として不安は払拭されていない。それも無理はない。コアウィーブの財務状況を見直してみれば、2025年12月期時点での自己資本、約33億ドルに対して有利子負債は516億ドル。そのうちの多くが5年以内に返済期限を迎える。さらに今期、26年12月末にはフリーキャッシュフロー(FCF)の赤字が前期末の72億ドルから272億ドルにまで積み上がるという。 この財務内容こそが、同社への市場の不信をすべて表しているのではないか。マクビー氏は、受注残が1000億ドル以上あると反論しているようだが、市場の関心はそこではない。AI(人工知能)データセンターの増強のために、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)各社も今年に入って大型の起債を始めている。彼らは多くの資金を本業で得た利益で賄うことができるが、事業規模の小さなネオクラウド事業者は事情が異なる。受注に応えるために、借金をしてまで設備投資し、赤字を拡大していくという構図そのものに、大きな懸念を示しているわけだ。この過剰投資と過剰借り入れの問題は、同じくネオクラウドの代表的存在、ネビウス・グループ 、そしてクラウド準大手のオラクル にも当てはまる。 今後の焦点は、AI相場が始まって以降、何度か訪れたプチ・ショック同様に一時的な調整にとどまるのか、それとも市場全体に不安が拡大するのかを見極めることだろう。23年3月のシリコンバレー銀行破綻や25年1月の「ディープシーク・ショック」などは局所的なショックだったが、市場全体に不安が連鎖していけば、バブル崩壊への端緒となるかもしれない。とはいえ、コアウィーブ単体の問題なら、エヌビディアが本気で救済に動けば解決する話で、今回はそこまで深刻な事態になるとは思えないが、いずれにせよ市場は、AI企業に対して「投資の収益性」をこれまで以上にシビアに問うことになるだろう。 これだけデータセンターへの投資が膨大な金額に及んでいる以上、売上高が拡大していくのは当たり前のこと。問われるのはバランスシート(BS)の健全性だ。ここに挙げた3社の決算でも、3年後のBS健全化に向けて明確なストーリーを描くことができるかに注目したい。それができれば、各社とも市場の評価を取り戻すことができるはずだ。 ◆ソフトウエア企業の躍進と「ミューズ」の影響が3Q決算の注目点 さて、これから米国企業の26年12月期第3四半期決算シーズンが佳境を迎えるが、ここに来て改めて感じるのは、AI関連企業の物色の変化だ。これまではAIインフラの川上に位置する企業群に市場の関心が集まっていた。半導体、半導体製造装置、電力供給など、AIデータセンター建設のために欠かせない企業だ。 だが今後は、より川下に向かうのではないか。例えば、AIを活用したソフトウエア開発のサービスナウ やクラウドストライク・ホールディングス 、クラウドフレア 、パランティア・テクノロジーズ といった企業だ。7月以降、いずれの企業も株価は右肩上がりで、サービスナウはまだ出遅れているが、他の3社は10月に入り最高値を更新。足もとは今回のショックで大きく調整しているが、決算の結果によっては、年末へ向けて、AI相場のけん引役となることが期待される。 もちろん、AI相場の持続性を測るうえで、今回の決算発表で最も重要なのは、10月21日(現地時間、以下同)のメタ・プラットフォームズ、10月28日のマイクロソフト 、アルファベット 、10月29日のアマゾン・ドット・コム といったハイパースケーラーであることは変わらない。中でも新型AIエージェント「Muse(ミューズ)」の発表で評価が一変したメタと、オープンAIとの関係が深く、AI投資の収益化を確認する機会となるマイクロソフトの決算には特に注目したい。 さらに今回の決算では、「ミューズ」登場によって注目を集めるAIエージェントの影響についても検証したい。インターネット上で仲介業務を行う企業の株が大きく売られたが、実際にどの程度の業績インパクトが出ているのか。ブッキング・ホールディングス 、エクスペディア・グループ などの旅行仲介事業者がまず挙げられるが、個人的にはEC(電子商取引)最大手のアマゾンへの影響も注視している。 一方、AIエージェントによって追い風を受ける企業も複数ある。エージェント機能にCPU(中央演算処理装置)が不可欠として、すでにインテル やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ などの半導体メーカーが市場の注目を集めているが、ソフトウエア企業では、11月3日に決算が発表されるショッピファイ に大きな可能性を感じる。 これまでネットで商品を売ろうとすれば、アマゾンなどの大手企業のECプラットフォームに頼らざるを得なかった。当然ながら、そこには少なくない仲介マージンが発生する。だが、AIエージェントの時代になり、インターネット上の膨大な情報の中から、消費者自らが商品を簡単に探すことができるようになれば、大手ECサイトの役割は縮小する。その点、同社のビジネスモデルは、小売り業者が独自にECサイトを構築するためのプラットフォームを提供するというもので、仲介業者を通さずに小売り業者と消費者を直接結び付ける役割を果たしている。今後、AIエージェントが本格的に浸透していくなら、恩恵をダイレクトに受ける企業なのだ。 ◆次のAI実装の本命、創薬大手は地合い良好 次にソフトウエアよりさらに川下に進んで、AIによる社会実装の効果が期待できるセクターに視点を移したい。AIの社会実装では、「フィジカルAI」「自動運転」「AI創薬」が最有力分野だと言われている。このうち「自動運転」はテスラ の独壇場であり、「フィジカルAI」は米国には有力企業がほとんど存在しない。最有力なのは、大小さまざまな世界的製薬メーカーがひしめく創薬分野だ。 市場の関心も日に日に増していて、26年6月以降、S&P500種指数構成銘柄のうちヘルスケア・セクターを抽出して算出された「S&Pヘルスケア指数」は、情報通信セクターで算出した「S&Pハイテク指数」のパフォーマンスと比較すると、ハイテク指数が3%超下落しているのに対して、ヘルスケア指数は20%弱上昇している。背景にはAI実装期待のほか、金利の先高観を含めた不透明な相場におけるディフェンシブ性の高さ、そして民主党優位と言われている米中間選挙への思惑もある。極めて良い地合いが続いているのだ。 中でも幅広い創薬パイプラインを持つメルク 、ファイザー 、アムジェン などの大手製薬メーカーは、足もとのチャートが右肩上がりで、今回の決算でAI実装の成果が明確に示されれば、さらなる株価上昇も期待できる。大手以外では、コロナ禍でメッセンジャーRNA活用のワクチンが注目されたモデルナ や、世界的なゲノム解析技術に定評があるイルミナ なども、AI実装の具体的な効果が期待できる。これらAI創薬関連企業の決算は、今回の決算シーズンの大きな注目ポイントだ。 ◆中間選挙通過後、年末に向けて買っておきたい銘柄は? では次に、残り2カ月半となった26年、これから買うべき銘柄について考えてみたい。米中間選挙については、民主党優位が伝えられているが、民主党が勝てば、トランプ政権で冷遇されていたセクターに再び日が当たることになる。具体的には、先述したヘルスケアや環境関連セクターなどだ。もし、予想を覆して共和党が勝てば、既定路線で進む。具体的には地政学的にもAI投資の需要面でも最大のボトルネックとなるエネルギー関連だ。 最も可能性が高い下院だけ民主党が勝つケースでは、いわゆる"ねじれ議会"となるが、米国では「グリッドロック・イズ・グッド(ねじれは良い)」という相場格言もある。実際、トランプ大統領が公言している大型減税や景気刺激策などのポピュリズム政策が困難になり、結果として財政不安が後退、金利も低下していくというシナリオも唱えられ始めている。つまり、米国株市場全体にとってのリスクは、どのような結果になっても中長期的にはそれほど高くない。もっとも、伝えられているとおり民主党優勢で進めば、弾劾決議案の続出や政権内での大統領の求心力低下などの混乱を嫌気し、市場から資金が逃げることも考えられるが、これは一時的なものだろう。 唯一、気になるのが10月27日に総選挙を控えたイスラエルおよび中東諸国の動向だ。フーシ派によるイエメンの空港への攻撃など、再び不穏な空気が漂い始めているが、諜略に長けたネタニヤフ政権の動向次第では、イランやパレスチナを含め、再び中東情勢が悪化へと向かう可能性も考えられる。そうなれば、米国株市場もより大きな調整を余儀なくされるだろう。 こうした不透明感を踏まえたうえで、年末に向けての投資戦略を考えるとなると、やはり有力な物色対象となるのは、先述したAI創薬銘柄だろう。さらに、より大局を見て、好材料に事欠かないのが、イーロン・マスク氏率いるスペースX だ。同社に関連するニュースとしては、先週、テスラが発表した"空飛ぶ自動車"の話題のインパクトが大きいが、この1カ月の間に他にも、同社の今後の成長性を考えるうえで極めて重要な好材料が出現している。それは、米投資会社から全米規模の周波数を取得する契約を結び、携帯キャリア参入の準備を整えたことだ。 これまで、世界の通信キャリア企業が幾度も挑戦して実現できなかった夢が、世界的な通信網の構築だった。各国規制の問題や周波数の違いなどを克服することができなかったのだ。だが、衛星通信事業「スターリンク」を持つ同社なら、この壁を乗り越えることができるかもしれない。世界初の地球規模の通信会社が誕生する可能性が現実味を帯びてきたと言える。この発表を受けて、ベライゾン・コミュニケーションズ やAT&T 、TモバイルUS など米大手通信会社の株価が暴落したが、「スターリンク」事業が軌道に乗れば、スペースXに市場シェアを大きく奪われるかもしれないという見方が広がったからだ。 そもそも通信事業とは、通信網を整えるための設備投資が一段落すれば、あとは長期にわたって安定的な収益を生むことができる"金のなる木"とでも言うべき性質を持っている。スペースXに関しては、26年6月末時点のFCFが159億5000万ドルの赤字と拡大していることをネガティブ視する見方もある。だがこの金額は、奇しくも米大手通信3社のFCFの同期間の黒字分とほぼ同じ規模。つまり、全米の通信市場を押さえてしまえば、通信事業だけでスペースX全社の赤字分を補えてしまう計算になる。 大言壮語の印象が強いイーロン・マスク氏だが、振り返ってみると、宇宙でのデータセンター構想や衛星通信事業、さらにテスラでの事業展開も含めて、これまでの取り組みには一貫性がある。どの事業も一朝一夕に進むはずがなく、今後も失敗を繰り返すだろうが、「高速で失敗を繰り返せ」がシリコンバレーの鉄則だ。大局を見据えたうえで、継続的なイノベーションを生み出す可能性を最も感じるのが、スペースXをはじめとした"イーロン・マスク帝国"なのだ。 上場して4カ月が過ぎたが、依然として同社の株価は100ドル台半ばのレンジで推移している。この間の出来高を見ると、150ドル前後の価格帯に売買が集中していて、上値が軽い状態が続いている。買い場は続いていると考えていい。 ◆「AI脅威論」は人類にとっての最大のテールリスク 最後に、AI企業の経営者から様々な発言が飛び出している「AIの脅威」について付け加えたい。肯定派、否定派それぞれの意見に関しては、立場や思惑を反映しており、額面どおりに受け取るわけにはいかない。だが、世界中で頻発するサイバー攻撃などを見れば、人間の制御が効かないAIが生まれつつあるという意見にも信ぴょう性がある。とはいえ、国家間、企業間で熾烈さを増すAIの覇権争いを考えれば、そう簡単にはAI開発のスピードが抑止されるとは考えにくい。この問題は、株式市場だけではなく、人類にとっての真のテールリスクだと言えるのではないか。 残念ながら人間は、深刻な危機に遭遇しなければ過ちに気付こうとしない。原子力開発でも、2度の原爆の被害の大きさを知り、はじめてその危険性を全人類が認識した。いまのAIによると思われる攻撃も、例えは悪いかもしれないが、飛行機が不自然に何機も墜落するといった深刻な事態が発生して、初めて世界中の人々がAIの危険性を認識することになるだろう。もちろんその時は、株式市場にも甚大な影響が及ぶことを覚悟すべきなのは言うまでもない。 【著者】 小川浩一郎(おがわ・こういちろう) 岩井コスモ証券投資調査部長/チーフアナリスト 1967年生まれ。外資系コンサルティング会社で戦略立案、M&Aアドバイザリー等に従事した後、投資ファンドで投資実務や資産運用に携わり、2006年、岩井コスモ証券に入社。現在は米国株式を中心に外国株式に関する業務全般を担当。テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」、インターネット配信「ストックボイス」等に随時、出演。長年の市場分析経験を生かしたストーリー性のある銘柄・セクター分析に定評がある。社団法人・日本証券アナリスト協会検定会員、米国公認会計士・米国証券アナリスト・有資格者。 株探ニュース