安田秀樹【復調のゲーム業界、「圧巻」の好業績・バンナムにも注目】

投稿:

コラム

●株価急落で懸念のAI関連企業、業績への不安は杞憂に終わる

 はじめに、令和8年熊本地震で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げたい。熊本駅やJASM(台湾積体電路製造:TSMC子会社)、ソニーセミコンダクタソリューションズなどの半導体工場付近は幾度か訪れたことがあるだけに、個人的にも心が痛む出来事であった。1日も早い復興をお祈りする。

 今月は2027年3月期第1四半期(26年4-6月期)決算について述べていく。まずは、投資家が最も注目したであろうAI(人工知能)関連銘柄の動向(春の急騰と7月の急落)についてである。特に5月から6月の急騰は異例のペースであり、理由が分からず筆者も困惑していたが、どうやらその要因は韓国市場にあったようである。

 韓国KOSPI(韓国総合株価指数)市場は、サムスン電子とSKハイニックスというメモリー半導体メーカー2社の時価総額が占める比率が高い。そのため、韓国株を対象とした2倍レバレッジETF(上場投資信託)が上場されたことで、信用取引を活用した借り入れによる投資が大幅に増加したことが要因と見られる。つまり、結果としてKOSPIは大きく上昇し、これが様々な取引を通じて波及することで、世界中のAI関連株を急騰させるに至ったようである。

 「投資家が期待するほど人々の行動はすぐには変容しないため、このギャップを埋めるような調整の動きが出る可能性がある」という点は、筆者がここ数カ月指摘してきたとおり、ある程度予想できたことである。結果としてキオクシアホールディングス <285A> の株価は高値から一時60%以上下落し、太陽誘電 <6976> も同程度の下落率を記録したほか、東京エレクトロン <8035> などの半導体製造装置関連株も連れ安となった。

 こうした不安感を抱えたまま決算発表期に突入したものの、結論から言えば業績に対する懸念は杞憂であった。東京エレクトロンは上期(26年4-9月期)の決算見通しを上方修正し、アドバンテスト <6857> 、村田製作所 <6981> 、太陽誘電ともに第1四半期決算は大幅な増収増益を達成、通期計画も上方修正した。総じて、各社の業績は絶好調である。

 特筆すべきはBBレシオ(受注額÷出荷額:1を超えることが好調の目安とされる)である。この数値が高いことは、インフレによる価格上昇やAIデータセンター投資の活発化を背景に、先行きの部材調達に不安を抱いているユーザー企業が多いことを示唆している。実際、村田製作所で1.34倍、太陽誘電で1.58倍と、筆者も記憶にないほどの高水準を記録した。第1四半期でこの水準に達している以上、当面は業績の拡大が見込まれ、業績面での不安は小さいと言える。

 一方で懸念事項を挙げるとすれば、ハイパースケーラー(巨大IT企業)の投資動向である。アルファベットの26年4-6月期決算によれば、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローが上場以来初のマイナスに転落したことが会社側から発表されている。

 現状のAI関連市場の活況は、ハイパースケーラー各社による数十兆円規模に上る巨額投資によって支えられており、その投資に見合う収益をいつ回収できるかが焦点となる。現状では、最終消費者から得られる金額に対して先行投資が巨額すぎる印象は否めない。実際、電子部品メーカーや半導体関連メーカーの一部からは「AIバブルではないか」と懸念する声も上がっており、今後の動向を注視していく必要がある。

●ソニーグループ、任天堂ともに好決算

 ゲーム業界からも好決算が相次いだ。ソニーグループ <6758> の27年3月期第1四半期決算は大幅増益となったが、これは米国の国際緊急経済権限法(IEEPA)により課されていた関税が還付された影響が大きい。約800億円のプラス効果を見込んでおり、これを織り込み、通期の業績を上方修正した。ゲーム関連では任天堂 <7974> も同様に3億ドル(約480億円)の還付を受けているほか、キヤノン <7751> やバンダイナムコホールディングス <7832> においても、還付金額に多寡はあるものの業績へのプラス要因となっている。

 ソニーグループの近年のゲーム事業は、ハードウェア販売の変動が収益に影響しにくくなったこともあり、安定的に推移している。通期計画については、上方修正されたものの、関税還付の影響が大きく、事業単体としてのサプライズには乏しい決算であった。

 なお、「プレイステーション5(PS5)」の販売台数は約160万台と、前年同期の約250万台から大きく落ち込んだ。値上げの影響を指摘する声は多いが、「値上げによって売れなくなるのは、そもそも商品としての魅力に乏しいからだ」と筆者は捉えており、当初からの指摘どおりおおむね順当な着地だと考えている。次世代機となる「PS6(仮称)」では、薄型化と大量生産の両立が課題となるだろう。任天堂が財務的リスクを取って成功を収めた以上、ソニーグループのゲーム事業を統括するSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)でも可能なはずである。今後の健闘に期待したい。

 任天堂の27年3月期第1四半期決算は減収ながら大幅増益となった。減収の要因は、前年同期(26年3月期第1四半期)にあった「Switch 2」のローンチに伴う582万台という記録的販売の反動であり、今期が通常ペースに戻ったためである。しかし、初代「Switch」の18年3月期第1四半期(197万台)や19年3月期第1四半期(188万台)の実績と比較すれば、後継機「Switch 2」の今四半期の販売台数382万台はかなりの伸びを示している。

 今後は値上げによる影響が懸念されるものの、第1四半期決算に限って言えばまったく問題のない水準であったと言っていいだろう。国内でのゲーム機販売は駆け込み需要の反動から完全には立ち直っていないものの、徐々に回復しつつある。極端な悲観論は次第に消えていくはずである。

●カプコンはリピート販売が好調で進捗率は50%に迫る

 続いて、ゲームソフトを開発・販売する企業の決算にも触れておきたい。コーエーテクモホールディングス <3635> 、カプコン <9697> ともに27年3月期第1四半期決算は増収増益となった。特にカプコンは、『バイオハザード』シリーズの最新作『バイオハザード レクイエム』の評判が高かったことやリピート販売の好調により、過去作やリメイク作品の販売が大きく伸びた。各種のセールを通した戦略的な価格引き下げ施策が功を奏しており、直近5年間の第1四半期におけるリピート販売本数が900万~1300万本程度で推移していたのに対し、今四半期は2100万本超に達している。その結果、営業利益の通期計画に対する進捗率は第1四半期だけで50%に迫る勢いであり、セールの効果は想定を大幅に上回っている。

 消費者は、支払う実額そのものよりも、価格変動の前後の価格差を比較して損得を認識する傾向がある。これはハードウェア値上げの際にも感じた点であり、行動経済学における「取引効用(もっと高いと思っていたものが、想定より安く買えたと感じた時の心理的な納得感)」と呼ばれるものである。そのため、わずかな値下げであっても「お得だ」と感じさせることができれば、強い購入動機となる。かつてはパッケージソフトが中古市場で回転してしまい、メーカー側が付加価値を取り込めないという課題があった。しかし現在は、過去のヒット作を適切に価格調整することで、直接販売を大きく伸ばすことに成功しており、業界として大変良い傾向にあると言える。

 一方、コーエーテクモHDも、株式会社ポケモンから国内発売されている『ぽこ あ ポケモン』や自社の『仁王3』などのリピート販売が堅調であった。また、有価証券投資からのリターンが大きかった点も業績に強く寄与している。

●圧巻だったバンダイナムコの第1四半期決算

 最後に、「圧巻」と言っていいほどの好業績を上げたバンダイナムコHDを紹介しておきたい。筆者は以前から同社の将来性を高く評価してきたが、昨年大きな伸びを見せた『ガンダム』と、カードゲームが少し踊り場にあった『ワンピース』の双方が、第1四半期の業績を大きく牽引した。

 具体的には、国内トイホビー事業において、ガンダム関連の売上高が前年同期の254億円から307億円へと大きく伸び、上期でも前期の493億円から570億円へと大幅増収を見込んでいる。ワンピース関連も同様で、前年同期の売上高221億円が275億円に、上期では482億円から570億円へと拡大する見通しだ。特にガンダムに関しては、前期が新作やイベントの恩恵を受けていた状態であり、それをさらに大きく上回ることは難しいと見ていただけにサプライズであった。これらにより、会社全体の上期計画も売上高6100億円から6900億円へ、営業利益は840億円から1240億円へと大幅に上方修正された。

 一方で、通期の営業利益計画(1850億円)は据え置かれており、これでは整合性が取れていない(保守的すぎる)と強く感じる。バンダイナムコHDの事業計画が保守的になりがちなのは恒例のことではあるが、第1四半期は素晴らしい内容であった。あえて課題を挙げるとすれば、特撮ヒーローものの『PROJECT R.E.D.』や『プリキュア』など、同社の伝統的な人気シリーズが若干弱かった点くらいだが、それらを補って余りある成果だったと言っていいだろう。

 任天堂やソニーグループを筆頭に、ゲーム・エンターテインメントビジネスはAIが脅威と見なされていた時期もあったが、少なくとも直近ですぐにマイナスの影響が生じるわけではないことが明白になってきている。各社の今後の動向が非常に楽しみである。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、2026年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

株探ニュース

オンラインで簡単。
まずは無料で口座開設

松井証券ならオンラインで申し込みが完結します。
署名・捺印・書類の郵送は不要です。